「萩まちじゅう博物館」20周年を迎えて【未来遺産運動ニュース】
「江戸時代の地図がそのまま使えるまち」として当時のたたずまいが今も残る山口県萩市では、「萩まちじゅう博物館」と称するまちづくり活動として、萩の歴史を物語る町並みや建造物などの文化財だけでなく、石垣や防風林といった生活文化を表す地域資源を市民自らが再認識し、守り、活用する取り組みが進められています。行政と協働し、市民側からこの取り組みを支えてきたNPO萩まちじゅう博物館より、これまでの20年にわたる活動をご紹介いただきました。(この活動は2013年に「プロジェクト未来遺産」に登録)
まち全体が屋根のない博物館
萩まちじゅう博物館(以下、「まち博」)は、山口県萩市において、まちじゅうを「地域の文化遺産を現地でありのままに展示・保存する屋根のない広い博物館」としてとらえるエコミュージアム概念を用いたまちづくり・観光地づくりの取り組みです。萩の歴史や文化、自然などの文化遺産を再発見し、市民と行政の協働により、守り育て、活用することで、「生きた遺産(living heritage)」として次世代に伝え、質の高い文化交流型の観光の実現や、地域景観の保全と形成、ひいては文化遺産の保全につなげることを組み込んだ萩独自の文化遺産マネジメントを目指しています。
「まち博」を市民の側で支える中心的な存在
NPO萩まちじゅう博物館は、「まち博」の中核である萩博物館の運営を担うとともに、まち博を市民レベルで推進する市民組織です。萩博物館の展示や施設管理は、行政職員である学芸員や事務局が担う一方で、会員であるごく普通の市民が、おもてなしの心と笑顔で受付や案内、展示のガイドなどを行っています。ミュージアムショップやレストランも運営し、「萩ならでは」のオリジナルグッズやメニューを提供しています。また、定期的な市民講座や、文化遺産の収集・整理・発信、学芸員のサポートとして民具や古写真の整理や展示、藍染め文化の探究などを介して市民交流や萩再発見を進め、活動を広げてきました。
これまでの取り組みと成果
当団体は、2004年の設立以降、受付班やガイド班など管理運営活動により、萩博物館をコロナ禍を除きほぼ毎日開館して運営を続けてきました。その積み重ねにより、市民が主体的にNPOに加わり、公共的な文化施設の運営を行う体制を確立させました。
また、未指定文化財の修理のために寄付を募るワンコイン・トラスト運動や旧城下に伝わる筋名の復活事業、地域の古老に話を聞いて記録する萩の物語記録事業、市内各地のおたからを再発見する文化遺産活用事業など、行政との協働のもとさまざまな活動に取り組み、それぞれの記録やおたからマップ(市内全域をほぼカバーする26エリアが完成)など、後世に残る成果を積み重ねてきました。
現在では、6つのボランティア活動部門と6つの学芸サポート部門の班活動があり、設立時には20人弱だった会員数は、現在は200人前後で推移しています。
また、「プロジェクト未来遺産」登録をきっかけに、市内の各地域団体との連携をさらに強めることができ、地域のおたからマップの作成や、古地図ガイドウォークの共通パンフレットの作成など、萩市内各所の魅力の発信につなげることができました。
20周年を迎えて-「萩まちじゅう博覧会」を開催
「まち博」が20周年を迎えることを機に、「まち博」の楽しみ方や過ごし方を多様な主体と一緒につくり、それを「見える化」するために企画されたのが「萩まちじゅう博覧会」です。2023年にプレ博覧会、2024年の春と秋に本博覧会が開催されました。市民や事業者、地域団体が、「まち博」の自然や文化、産業や歴史の“おたから”を活かして、「まち博」を体験・体感ができるプログラムを企画・実施しました。
当団体では、実行委員会の一員として運営を支え、さらに萩博物館での着物コレクションやまち歩きの新コースなど、新たなプログラムの企画にも挑戦しました。
20周年のその先を目指して
「まち博」とともにスタートし、設立20周年を迎えた当団体ですが、ますます進む高齢化や人口減少などの社会的な環境変化の中で、会員数の維持・拡大が課題になっています。今後は、移住者や事業者、次の世代に会員の輪を拡げ、より充実した活動を進めていく必要があります。そのためにも、萩市のまちづくりや文化遺産を守り活かす文化財や観光の施策に対してより積極的に関わり、公民の協働の輪を広げることで、「まち博」の活動を力強く続けていきたいと考えています。
未来遺産運動では、多くの方々に身近な地域や全国各地の「プロジェクト未来遺産」に関心を持っていただくことで、地域を越えた新たなつながりを生み出し、全国に応援の輪が広がることを目指しています。