離れていても学べる・繋がる
〜コロナ禍における肢体不自由校の防災教育への挑戦〜
埼玉県立日高特別支援学校
活動に参加した児童生徒数/全児童生徒135人
活動に携わった教員数/113人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/75人
実践期間2021年4月1日~2022年3月31日
活動のねらい
・基礎疾患を有する本校の児童生徒の実態から、コロナ禍の影響を大きく受けている。これまでのような外部支援者と直接関わるような防災学習や体験学習を中心にした一斉指導が難しくなった。感染対策を考慮しながら障害の重い児童生徒向けにオンラインを活用した防災学習に取り組み、新たなプログラムを作成する。
・防災に関心を持ってもらうため、地域や他の特別支援学校、防災の専門家、行政と繋がって行う「防災体験プログラム」はコロナ禍のため今年度もオンラインで実施する。分身ロボットOriHimeを使って外出が困難なコロナ禍でも防災について学ぶ機会を積極的に作っていく。
活動内容
1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
4月〜:防災学習の動画を作成し、各自のiPadを使って視聴、防災学習を実施
6月:防災委員会で高分子ポリマーを使った「センサリーバック」作成
7月:分身ロボットOriHimeを使って埼玉県防災学習センターでの防災体験
OriHimeを使って他校職員や保護者・児童生徒が本校の防災関係見学
:第8回防災体験プログラムをオンラインで実施
8月:日高市社会福祉協議会主催のボランティア体験プログラムでセンサリーバックづくりのワークショップ開催
9月:マッシュ&ルームとの共同制作でiPadを使った「かわせみ防災クエスト」制作開始
10月:防災委員会による「かわせみ防災クエスト」画像撮影・ポスター制作・告知等準備期間
11月:「かわせみ防災クエスト」公開 防災委員会 災害用トイレ制作
(中・高)かわせみ防災タイム対面授業実施
小学部教職員を対象に地震体験マット(YURETA)の体験
12月:災害用トイレ校内設置
1月:防災委員会 年間活動報告動画撮影(学校評議委員会や全校集会で上映)
2月:防災委員会 デコヘル(デコレーションヘルメット)作製
※毎月11日は「(命を守る)ゾウの日」として防災委員会の啓発活動を行なっている。
2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。
昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
N助という言葉がとても印象に残った。偶然その頃にICTを使った活動をする団体と防災の新しい取り組みを始めることになり、9月の研修で学校以外の場所とつながる必要性、という学びを得たことが影響していると思われる。これまで外部団体から特別支援教育への理解がされず残念な経験をしてきたため、本校の実態がわかるのは自分達だ、と教職員を中心に取り組んできた。今回は児童生徒の実態や学習のねらい・配慮すべきことを整理し、得意な団体に依頼する、という形をとることができた。助成金はその団体への依頼費として使用した。
11月には以前教職員研修を依頼したNPO法人減災教育普及協会から地震の体験マット「YURETA」のモニター依頼があり、本校の教職員防災研修や防災学習で使用した。外部団体の教材を活用できた事例である。他にも助成金を活用しオンラインイベントの講師依頼や分身ロボットOriHimeをレンタルすることができた。
3)実践の成果
①減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
・重度重複障害の児童生徒向けの防災学習プログラムを作る、という課題があったが「かわせみ防災クエスト」によって障害の重い児童生徒も教職員と一緒に防災学習ができるようになった。これまでは防災担当がテーマを決めて一斉指導していたが、一斉故にそれぞれのペースで学習出来ないという課題があった。しかしクエストの10個のミッションは児童生徒に学んでほしいことを課題別に組み立ててあり、どこから始めても大丈夫で、それぞれのペースで学習することができる。何より一斉指導で受け身になりやすかった教職員も楽しいゲーム風の画面に引き込まれ、率先してクエストに挑戦しようと誘うようになった。
・以前防災委員会の活動で災害用トイレについて取り組んだことがあったが、その必要性について説明が十分に出来ず、深い学びにつながらなかったという反省がある。今年度はその仕組みについて実体験をもとに学んでもらうために高分子ポリマーが水分を吸収する仕組みを使ってセンサリーバックという感触を楽しむおもちゃ作りをした。白い粉に水を含ませるとみるみる膨らむ様子に興味深く見る児童生徒がいる中、出来上がったおもちゃを頬に当て「これは冷たいから保冷剤の代わりになるね」と発言した生徒がいた。教員が説明する前に気づけたのは体験をしたからである。一方的な指導ではすぐに忘れてしまうかもしれないが、実体験を伴うことで記憶に残る、新しい発見ができたのだと思う。このプログラムは社会福祉協議会のボランティアプログラムでも同様に行い、地元の中学生が体験した。日高市はこの半月前に雷雨による大規模停電を体験したということもあり、防災講座も行なった。停電時に困ったことを挙げてもらい、停電になるとマンションなどでは断水になる可能性もあることからトイレの備えの話や保冷剤の話につなげた。中学生の感想には「学校では防災について教えてもらったことがなかったのでとても勉強になった」等が挙げられていた。本校の取り組みが地域での防災学習に有効であることが分かったのでコロナが落ち着いたら本校の防災イベントや地域の福祉まつりなどでも実践していきたいと思う。
・今年度の防災委員会の活動で校内のトイレ環境を整備することにした。高分子ポリマーを使って仕組みを学んだ後は災害時用のトイレ(高分子ポリマーの粉、ビニール袋(トイレにかぶせるもの・処分用の2種類)、を作成した。それらを数個ずつ箱に入れるのだが、箱の表に委員会の児童生徒の描いた作品を入れて絵を飾る額縁のようにした。校内の全てのトイレに設置し、トイレを明るく楽しい雰囲気にするとともに、いつもの生活の中にもしもの備えを併せ持つようにした。委員会の活動が多岐に渡り、災害用トイレを多く作成することが難しかったので配布する量が減ってしまったが、毎年の活動に繋げていけると考えている。
②児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
・教職員と共にさまざまな防災のミッションに挑戦することで楽しみながら学ぶことができた。「クエストしよう」という声掛けで、休み時間や学年活動を利用して、友達と一緒に取り組むことができた。これまでは一斉指導の中で受け身になることもあったが、一人ずつ自分のiPadを使うことで主体的に関わることができるようになった。クリアするとレベルが上がるので励みになった児童生徒もいた。何より余暇の過ごし方の一つに「クエストしたい」と選択し、一緒に行く友達や途中でミッションをしている友達や教員に質問したり、話しかけたりすることでコミュニケーション能力が向上することができた。
校内を探検し、「◯◯に行く」という目標に向かうことで車椅子の操作性の向上やプローンボード(立位台)を使って様々な姿勢をとるという自立活動の課題に取り組んだりすることができた。また、各自の好きなペースで防災学習を行うことができた。友達がいくつクリアしたか、旅を終えることができたか、などの取り組み状況がクエストのホーム画面から見ることができるので「もっとやりたい」という意欲に繋がり、継続して取り組むことができた。早々にクリアした児童生徒もいたため、制作者と相談し、1回で終了するという設定から「もう1回トライ!クエスト」として学習の定着のため2回目の挑戦ができた。気に入った画面をもう一度見るために挑戦したり、間違えた問題に再び挑戦したりするなどそれぞれが学びを深めることができた。クエスト修了者には修了証を防災委員会から手渡す予定だったが、コロナウイルスによる学級閉鎖のため教員が後日渡す形になった。コロナ禍のため仕方ないことであったが、自分の取り組んだことについて達成感を味わうことができた。
③教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
・これまで本校で積み重ねてきた学習内容だが、教職員の異動によってうまく引き継がれていないことが課題になっていた。
・特別支援教育を必要とする児童生徒にとって、自ら課題を見つけ、取り組んでいくことは難しい。特に重度重複障害のある場合は教員と一緒に繰り返し学んでいくことで少しずつ身につけていくことを目標としている。これまでの本校の防災学習は学部ごと(小学部は低学年・高学年)に集まり、友達や教員と一緒に災害から命を守る方法について何年もかけて取り組んでいた。コロナ禍及び今年度の防災学習によって、指導グループでも実施できるきっかけとなった。どんな障害があっても学んでほしい項目を整理し、今回のかわせみ防災クエストのミッションとして取り入れた。
・避難訓練のアンケートに「かわせみ防災クエストで学んだことが活かされた」が挙げられており、楽しく学んだことを覚えていて行動を取ることができたことを担任が評価している。
・本校の教職員が作成した動画も指導には有効だという意見が多かったが、一部では児童生徒の実態に合わないという意見もあった。クエストのアンケートは実施中のためまだ取れていないが「こんなに楽しいものをどうやって作ったのか」「児童生徒と早く一緒にやりたい」「これはすごい」「児童生徒が楽しんでやっている」など高評価である。
・保護者からも「連絡帳で楽しそうな様子が書かれている」「ホームページに様子が掲載されているのでわかりやすい」などの意見も聞くことができた。
・外部からは特別支援学校でICTを活用した防災学習が高く評価され、兵庫県・毎日新聞主催の「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園」の特別支援学校・団体の部の大賞を受賞することができた。他にも日本教育新聞社や学研の特別支援関係の教育雑誌などで特集を組んでもらって掲載されている。
4)実践から得られた教訓や課題と次年度以降の実践の改善に向けた方策や展望
・自ら「やってみたい」「次はなんだろう」と思ってもらうことが主体的に防災学習に関わる際には重要であり、特別支援教育の中でも実施可能だということがわかった。本校の防災学習は実際に体験できるような内容を工夫してきたが、クエストでも頭を守るヘルメットを探して被る、日高市で地震が起こる想定の時間をタイマーなしに数える、など体験しながら実感できるものを各自で実施することができた。これまでの防災学習で蓄積してきた内容をクエストという形で提示し、異動により半分以上入れ替わった教員にも本校の防災を示すことができた。
・今回のクエストはこれまで本校で大切にしてきた『災害セルフケアパッケージ 肢体不自由児用(共立女子大)』にある、学んでほしい9つの項目に、本校で取り組んできたことを振り分けてミッションにしてきた。学習項目の整理はできたが、他の特別支援学校でも使用できるよう、他校と一緒にミッションを作る、そのやりとりをオンラインで行う、などの発展できる可能性がある。この実践に興味を持つ人が多く、問い合わせもあるため、次年度は発展できる形を模索していきたい。また、クエスト制作に協力してくれた「マッシュ&ルーム」という団体とは取り組みを今後デジタル防災絵本などに展開できないか、と相談中である。ICTを使った防災教材の開発に今後広がる可能性がある。
・また分身ロボットOriHimeで家庭や学校などから離れた場所で防災学習をする、という実践をすることができたが、次年度以降、OriHimeを防災学習センターに設置し、本校の取り組みを展示しておいて興味を持った人が質問したり感想を伝える、OriHimeを操作している本校の児童生徒がその対応をしたり、取り組みの説明をする、という形もできるのではないか、と考えている。また、OriHimeやzoomを活用することで自宅や学校から地域の防災訓練や支援籍学習(自宅のある地域の小・中学校)の防災学習に参加し、それぞれの立場で気付いたことを話し合う機会も作ることができるのではないか。
1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
4月〜:防災学習の動画を作成し、各自のiPadを使って視聴、防災学習を実施
6月:防災委員会で高分子ポリマーを使った「センサリーバック」作成
7月:分身ロボットOriHimeを使って埼玉県防災学習センターでの防災体験
OriHimeを使って他校職員や保護者・児童生徒が本校の防災関係見学
:第8回防災体験プログラムをオンラインで実施
8月:日高市社会福祉協議会主催のボランティア体験プログラムでセンサリーバックづくりのワークショップ開催
9月:マッシュ&ルームとの共同制作でiPadを使った「かわせみ防災クエスト」制作開始
10月:防災委員会による「かわせみ防災クエスト」画像撮影・ポスター制作・告知等準備期間
11月:「かわせみ防災クエスト」公開 防災委員会 災害用トイレ制作
(中・高)かわせみ防災タイム対面授業実施
小学部教職員を対象に地震体験マット(YURETA)の体験
12月:災害用トイレ校内設置
1月:防災委員会 年間活動報告動画撮影(学校評議委員会や全校集会で上映)
2月:防災委員会 デコヘル(デコレーションヘルメット)作製
※毎月11日は「(命を守る)ゾウの日」として防災委員会の啓発活動を行なっている。
2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
N助という言葉がとても印象に残った。偶然その頃にICTを使った活動をする団体と防災の新しい取り組みを始めることになり、9月の研修で学校以外の場所とつながる必要性、という学びを得たことが影響していると思われる。これまで外部団体から特別支援教育への理解がされず残念な経験をしてきたため、本校の実態がわかるのは自分達だ、と教職員を中心に取り組んできた。今回は児童生徒の実態や学習のねらい・配慮すべきことを整理し、得意な団体に依頼する、という形をとることができた。助成金はその団体への依頼費として使用した。
11月には以前教職員研修を依頼したNPO法人減災教育普及協会から地震の体験マット「YURETA」のモニター依頼があり、本校の教職員防災研修や防災学習で使用した。外部団体の教材を活用できた事例である。他にも助成金を活用しオンラインイベントの講師依頼や分身ロボットOriHimeをレンタルすることができた。
3)実践の成果
①減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から ・重度重複障害の児童生徒向けの防災学習プログラムを作る、という課題があったが「かわせみ防災クエスト」によって障害の重い児童生徒も教職員と一緒に防災学習ができるようになった。これまでは防災担当がテーマを決めて一斉指導していたが、一斉故にそれぞれのペースで学習出来ないという課題があった。しかしクエストの10個のミッションは児童生徒に学んでほしいことを課題別に組み立ててあり、どこから始めても大丈夫で、それぞれのペースで学習することができる。何より一斉指導で受け身になりやすかった教職員も楽しいゲーム風の画面に引き込まれ、率先してクエストに挑戦しようと誘うようになった。
・以前防災委員会の活動で災害用トイレについて取り組んだことがあったが、その必要性について説明が十分に出来ず、深い学びにつながらなかったという反省がある。今年度はその仕組みについて実体験をもとに学んでもらうために高分子ポリマーが水分を吸収する仕組みを使ってセンサリーバックという感触を楽しむおもちゃ作りをした。白い粉に水を含ませるとみるみる膨らむ様子に興味深く見る児童生徒がいる中、出来上がったおもちゃを頬に当て「これは冷たいから保冷剤の代わりになるね」と発言した生徒がいた。教員が説明する前に気づけたのは体験をしたからである。一方的な指導ではすぐに忘れてしまうかもしれないが、実体験を伴うことで記憶に残る、新しい発見ができたのだと思う。このプログラムは社会福祉協議会のボランティアプログラムでも同様に行い、地元の中学生が体験した。日高市はこの半月前に雷雨による大規模停電を体験したということもあり、防災講座も行なった。停電時に困ったことを挙げてもらい、停電になるとマンションなどでは断水になる可能性もあることからトイレの備えの話や保冷剤の話につなげた。中学生の感想には「学校では防災について教えてもらったことがなかったのでとても勉強になった」等が挙げられていた。本校の取り組みが地域での防災学習に有効であることが分かったのでコロナが落ち着いたら本校の防災イベントや地域の福祉まつりなどでも実践していきたいと思う。
・今年度の防災委員会の活動で校内のトイレ環境を整備することにした。高分子ポリマーを使って仕組みを学んだ後は災害時用のトイレ(高分子ポリマーの粉、ビニール袋(トイレにかぶせるもの・処分用の2種類)、を作成した。それらを数個ずつ箱に入れるのだが、箱の表に委員会の児童生徒の描いた作品を入れて絵を飾る額縁のようにした。校内の全てのトイレに設置し、トイレを明るく楽しい雰囲気にするとともに、いつもの生活の中にもしもの備えを併せ持つようにした。委員会の活動が多岐に渡り、災害用トイレを多く作成することが難しかったので配布する量が減ってしまったが、毎年の活動に繋げていけると考えている。
②児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。 ・教職員と共にさまざまな防災のミッションに挑戦することで楽しみながら学ぶことができた。「クエストしよう」という声掛けで、休み時間や学年活動を利用して、友達と一緒に取り組むことができた。これまでは一斉指導の中で受け身になることもあったが、一人ずつ自分のiPadを使うことで主体的に関わることができるようになった。クリアするとレベルが上がるので励みになった児童生徒もいた。何より余暇の過ごし方の一つに「クエストしたい」と選択し、一緒に行く友達や途中でミッションをしている友達や教員に質問したり、話しかけたりすることでコミュニケーション能力が向上することができた。
校内を探検し、「◯◯に行く」という目標に向かうことで車椅子の操作性の向上やプローンボード(立位台)を使って様々な姿勢をとるという自立活動の課題に取り組んだりすることができた。また、各自の好きなペースで防災学習を行うことができた。友達がいくつクリアしたか、旅を終えることができたか、などの取り組み状況がクエストのホーム画面から見ることができるので「もっとやりたい」という意欲に繋がり、継続して取り組むことができた。早々にクリアした児童生徒もいたため、制作者と相談し、1回で終了するという設定から「もう1回トライ!クエスト」として学習の定着のため2回目の挑戦ができた。気に入った画面をもう一度見るために挑戦したり、間違えた問題に再び挑戦したりするなどそれぞれが学びを深めることができた。クエスト修了者には修了証を防災委員会から手渡す予定だったが、コロナウイルスによる学級閉鎖のため教員が後日渡す形になった。コロナ禍のため仕方ないことであったが、自分の取り組んだことについて達成感を味わうことができた。
③教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
・これまで本校で積み重ねてきた学習内容だが、教職員の異動によってうまく引き継がれていないことが課題になっていた。
・特別支援教育を必要とする児童生徒にとって、自ら課題を見つけ、取り組んでいくことは難しい。特に重度重複障害のある場合は教員と一緒に繰り返し学んでいくことで少しずつ身につけていくことを目標としている。これまでの本校の防災学習は学部ごと(小学部は低学年・高学年)に集まり、友達や教員と一緒に災害から命を守る方法について何年もかけて取り組んでいた。コロナ禍及び今年度の防災学習によって、指導グループでも実施できるきっかけとなった。どんな障害があっても学んでほしい項目を整理し、今回のかわせみ防災クエストのミッションとして取り入れた。
・避難訓練のアンケートに「かわせみ防災クエストで学んだことが活かされた」が挙げられており、楽しく学んだことを覚えていて行動を取ることができたことを担任が評価している。
・本校の教職員が作成した動画も指導には有効だという意見が多かったが、一部では児童生徒の実態に合わないという意見もあった。クエストのアンケートは実施中のためまだ取れていないが「こんなに楽しいものをどうやって作ったのか」「児童生徒と早く一緒にやりたい」「これはすごい」「児童生徒が楽しんでやっている」など高評価である。
・保護者からも「連絡帳で楽しそうな様子が書かれている」「ホームページに様子が掲載されているのでわかりやすい」などの意見も聞くことができた。
・外部からは特別支援学校でICTを活用した防災学習が高く評価され、兵庫県・毎日新聞主催の「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園」の特別支援学校・団体の部の大賞を受賞することができた。他にも日本教育新聞社や学研の特別支援関係の教育雑誌などで特集を組んでもらって掲載されている。
4)実践から得られた教訓や課題と次年度以降の実践の改善に向けた方策や展望
・自ら「やってみたい」「次はなんだろう」と思ってもらうことが主体的に防災学習に関わる際には重要であり、特別支援教育の中でも実施可能だということがわかった。本校の防災学習は実際に体験できるような内容を工夫してきたが、クエストでも頭を守るヘルメットを探して被る、日高市で地震が起こる想定の時間をタイマーなしに数える、など体験しながら実感できるものを各自で実施することができた。これまでの防災学習で蓄積してきた内容をクエストという形で提示し、異動により半分以上入れ替わった教員にも本校の防災を示すことができた。
・今回のクエストはこれまで本校で大切にしてきた『災害セルフケアパッケージ 肢体不自由児用(共立女子大)』にある、学んでほしい9つの項目に、本校で取り組んできたことを振り分けてミッションにしてきた。学習項目の整理はできたが、他の特別支援学校でも使用できるよう、他校と一緒にミッションを作る、そのやりとりをオンラインで行う、などの発展できる可能性がある。この実践に興味を持つ人が多く、問い合わせもあるため、次年度は発展できる形を模索していきたい。また、クエスト制作に協力してくれた「マッシュ&ルーム」という団体とは取り組みを今後デジタル防災絵本などに展開できないか、と相談中である。ICTを使った防災教材の開発に今後広がる可能性がある。
・また分身ロボットOriHimeで家庭や学校などから離れた場所で防災学習をする、という実践をすることができたが、次年度以降、OriHimeを防災学習センターに設置し、本校の取り組みを展示しておいて興味を持った人が質問したり感想を伝える、OriHimeを操作している本校の児童生徒がその対応をしたり、取り組みの説明をする、という形もできるのではないか、と考えている。また、OriHimeやzoomを活用することで自宅や学校から地域の防災訓練や支援籍学習(自宅のある地域の小・中学校)の防災学習に参加し、それぞれの立場で気付いたことを話し合う機会も作ることができるのではないか。
活動内容写真
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活動において工夫した点
・GIGAスクール構想で各自1台ずつiPadが配布されたので、コロナ禍の中、活用できたらと思っていた。最初に取り組んだ防災動画についてもそれぞれの見やすい方法で視聴でき、テレビに接続すれば授業の中でも使用できると考えていた。これまで一斉指導で行っていた内容をパワーポイントの動画にし、誰が見てもわかりやすいようにした。また、本校の防災倉庫の様子や晒を使った安全な移動方法など繰り返してみられるようにしたことで職員研修としても活用しやすくした。
・かわせみ防災クエストはRPG風になっていてゲームに親しんでいる教員たちや児童生徒にも興味を持つ様になっている。防災学習において主体的に関わっていけるような工夫が必要だと思っていたので、この形式で「早くやりたい」という気持ちを引き出せたことが大きい。ミッションの内容も短時間でできるのでそれぞれの負担感は少なく、自分で解決できる場合はそれが可能な内容、難しい場合は教員にヒントを聞きながら、または一緒に取り組めば解決できる様になっている。実態差が大きいのでそれも考慮し、ミッションの難易度も変えているため飽きずに挑戦できる。間違えてしまっても「宿屋」へ行けばクリアするまで何度も挑戦できるので、達成感も大きくなる。
・クエストを製作したマッシュ&ルームとはオンラインの打ち合わせを行い、途中経過をこまめに報告することでイメージの共有を図ることができた。また、防災委員会の児童生徒が自分のiPadを使ってミッションの素材を撮影したので、それがみたくてクエストに挑戦する、ということもあった。
・かわせみ防災クエストの予告ややり方の説明についてのショートムービーを作成し、校内のポスターやチラシにQRコードを貼り付けた。コードの読み込む練習も兼ねたのだが、これによってクエストへの期待感が上がった。また、障害の状況によってはすぐに取り組めないケースもあるためインスタ風のフォトフレームを作成し、イベントに参加している雰囲気から参加してほしいと考えた。今年度も学校行事が全て中止になっているので、校内での様子の写真撮影スポットとして活用してもらうことができた。そうなると次は実際にミッションに取り組む様子も撮影しておきたい、という心理が働き、参加してもらえるケースが増えている。他にも感染症対策で家庭学習を余儀なくされているケースも多いので校内のミッションを一冊にまとめ、学習課題も添付したものを配布している。1月からは特に身体の小さい小学部の児童を中心にミッションへの参加が難しいケースにも配布し、参加を促していきたい。