地域のために中学生の力を発揮する 減災の観点から

袋井市立袋井中学校

活動に参加した児童生徒数/3学年264人
活動に携わった教員数/14人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/5人

実践期間2019年5月31日~2019年12月25日

活動のねらい

静岡県ではかねてより南海トラフを中心とした非常に強い地震が発生する可能性が高いと言われている。そのため、以前から減災に対する意識は比較的高い地域に当たる。本校では、年に2度の防災訓練の実施と地域防災訓練への参加、防災講話を中心に減災教育を行ってきた。しかし、日本各地で起こる自然災害や避難生活、また現在の少子高齢化する地域の課題を見つめた際に、中学生が求められる行動が「自分の命を守る」ことから、「地域のために力を発揮する」を加えることに変化してきている。現に、被災地では中学生、高校生の若い世代が炊き出しや、がれきの撤去などで率先して役割を担っている。そこで総合的な学習の時間で3年生を中心に「なりたい自分になろう」を大テーマに、減災をきっかけに地域の課題を見つめ、地域のために何ができるかを考えた。活動を通して、地域の担い手となっていけるように学習を計画した。以下に挙げる実践を生徒が経験する中で、被災時に中学生に何ができるかを生徒自身が自覚し、率先して行動できる意識を持てるようになることをねらいとした。また、地域から頼りにされる中学生となることも期待して実践を行った。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
①防災体験学習
3年生を対象に静岡県西部地域局の方を招き、防災講話や災害時判断ゲームを行った。また、消防署や市の職員の方に協力いただき、AEDの使い方やロープ結束、非常食の調理などの体験活動を行った。
②袋井市中学生未来会議
袋井市では毎年8月に各中学校から代表者が参加し、市長をはじめ袋井市役所や市議会議員、地域の方々に中学生の意見を発表する場がある。本校からは生徒会本部役員と3年生学級代表が参加し「防災や防災時における中学生に求められることと実践」を大きなテーマとし「袋井市の課題と被災時における心配」「防災について中学生ができること」「どのように発信するか」「防災等について袋井市に聞きたいこと」を提案した。なお、この活動の準備段階では、3年生が袋井市の防災上の課題と自分たちにできることを学活の時間に学級ごと話し合い、学年集会で発表することで土台を作り、学級代表を中心として提案内容をまとめた。
③地域貢献活動
3年生の総合的な学習の時間で地域貢献活動を行った。複数のテーマを設け、地域のために何が出来るかを探究した。その中で、防災を選択した生徒が防災マニュアル作成と啓発動画の作成を行った。啓発動画では釜石東中学校の生徒が作成した「THEてんでんこTHEATER」を参考にした。参考動画では津波が起こった際にどう行動するかを中学生扮するヒーローが教えていくストーリーであり、釜石東中学校ではこの「てんでんこ」を実践することで被災者を最小限にとどめた。本校でも防災グループの生徒が、地震が起こった際にどのように行動するか、避難所で中学生ができることはなにか、地震による火災が発生したらどうするかなどを自らが演じ、撮影した。防災マニュアルでは、中学生にできることをまとめ、共通の意識を持ちたいという観点から、AEDの使い方や避難所での生活、家具の固定などをまとめた。
④その他
ふじのくにジュニア防災士の認定を3年生全員で目指した。「減災の意識を持ち、南海トラフ巨大地震などの災害から自らの身を守ることができる者」及び「地域の防災活動に参加する次世代の地域防災リーダーとなることが期待される者」をジュニア防災士として認定する静岡県の取り組みである。また、その認定には防災訓練への参加が必須で、地域の防災訓練への参加率も増加し、生徒は炊き出しや応急手当などを学んだ。


2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。
  昨年度まで(助成金・研修受講前)と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
減災の能力・態度、レジエンスを育むための探究的・実践的な減災教育の実践(主体的な学び)、「共助・公助・N助」を促進する地域や外部機関と連携した防災体制の構築(対話的・協働的な学び)の観点から生徒が自分たちで課題意識を持ち、地域のためにできることを考えた。減災教育において、主体的かつ協働的に自分の役割を自覚し、実践することは非常に大切な意識であり、それが被災時の適応に近づくと考えた。助成金では完成した啓発動画をDVDや防災マニュアルを冊子にしたものを配布することに使わせていただき、中学生の活動を知っていただくきっかけとなった。

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
先述のように「守られる存在」から「守る存在」への転換を図り、地域のために自分たちに何ができるかを学ぶことを主眼に置いた学習を展開した。また、「画一」から「適応」という視点から減災教育に取り組み、具体的な行動や方法を学ぶことで、どうしたら良いか分からないという思いが、もし被災したらこのように行動しなければいけないと考えられるようになった。

児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
具体的に自分たちが行動できることを知ったことで、実践しようという意識が生まれ始めた。地域防災訓練でも、今までは経験しなかった炊事担当をかってでたり、三角巾での応急手当を学び、学級で伝達したりする生徒がいるなど変化が見られた。また、防災のためには、地域の連携が必要で、普段からの積極的なコミュニケーションが必要であると考え、そのために保育施設や介護施設を訪問し、ボランティアする生徒もいた。生徒たちにとっても、自分たちができることを学ぶことは、自発的な活動への自信につながったようである。また、DIGやHUG、消火訓練などから、被災時に自分たちがどのように行動すればよいかを考え、具体的な技術や知識を身に付けることができた。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
これまで地域防災訓練での中学生の意識の低さに苦言を呈する声もあった。一方、地域としても被災時や防災の際に、中学生などの若い世代への期待が大きいのも事実である。本実践の中で、防災への意識や、地域のために活動したいという思いが強くなったと感じている。しかし、そこで終わりではなく、地域の中で実践してこそ、初めてこの経験が生きてくると考えている。地域もまた、その実践の場を与え、中学生に役割を与えることで、より高い防災意識が地域に広がっていくと思われる。今後、教師や保護者、地域が協力して防災教育に取り組んでいく必要性を強く感じ、訴えかけていきたい。

4)実践から得られた教訓や課題と次年度以降の実践の改善に向けた方策や展望
地域のために何かをしたい、貢献したいという気持ちは誰しもが持っている。しかし、何をどうしていいかわからないという思いがその一歩を躊躇させてしまっているように感じた。被災時に中学生ができることを知ることで行動の基本が生まれ、自信を持って行動することができるのではないか。地域の担い手としての自覚と、行動方法を身に付けることで、誰しもが地域に貢献できる人になれる。中学校での防災教育もそのような意識を持つ必要がある。

5)その他
いつ起こるか分からない災害にどのように適応していくか。これからの時代を生きる中学生にとって、とても大切なことである。「十分な訓練もしていた私たちでした。しかし、自然の猛威の前には人間の力はあまりにも無力でした。(中略)運命に耐え、助け合っていくことが私たちの使命です」(階上中学校答辞より)今後、私たち学校職員も生徒たちに主体的な減災への学びの機会を作り、助け合う心を育み、一人でも多くの人を助けられる人を育てられるように減災教育に励まなければならないと気付かされた。その機会を与えてくださった本事業であった。

 

活動内容写真

活動において工夫した点

生徒の思いや学ぶ意欲を大切にしていけるように指導した。たとえば、先述の地域防災訓練での中学生の意識の低さについても、中学生の話合いでは何をしていいかわからない、手伝いたいと思うけどやり方が分からないとの声があった。そこで、被災時に役立つこと学んだり、自分たちの行動をマニュアル化したりしようという動きが生徒の中で生まれ、活動の方向性を決めていくことになった。啓発動画の作成でも、脚本や出演、撮影を生徒自身が担当していた。

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