「一人の命もなくさない!」~児童・職員・保護者・地域の防災・減災意識向上をめざして~

鳥羽市立安楽島小学校

活動に参加した児童生徒数/1~6学年227人
活動に携わった教員数/19人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/120人

実践期間2015年6月1日~2016年3月25にち

活動のねらい

本校が置かれている地理的条件から、南海トラフ地震による揺れや津波等から一刻も早く避難態勢をとり、自身の命を守る行動を主体的に判断できるようにする防災・減災教育を推進していくことが急務となっている。そこで、本取組の中で、三重大学等関係機関(学校防災アドバイザー等)の協力を得ながら、学校と保護者・地域が連携した防災・減災教育推進の場を意図的に設定し、児童・地域の特性に応じた防災・減災教育を進め、学校・保護者・地域が共に協力して防災・減災教育に取り組む素地づくりの構築をめざしていく。
目的は大きくは以下の4点とする。①「自らの命を守るために必要な心構えや行動を学ぶ」②「自然現象の知識を学ぶ」③「防災・減災のための知識を学ぶ」④「地域・保護者への防災・減災意識の啓発」 この積み重ねで、来るべき地震と津波に備える。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
【5月:ヘルメットの固定作業】避難時に児童が使用するヘルメットは、昨年度までは教室後方のロッカーに置かれていた。この状態だと実際に地震が起きた場合、ヘルメットが散乱しすぐに手に取れないばかりか、それ自体が危険物と化するおそれもあった。そこで、職員作業として、椅子の下方に固定するようにした。
【7月:職員研修】研修会の講師として三重大学の川口先生をお招きし、次の2点についてお話を伺った。[災害と学校・教職員]避難時は子どもの安全確保が最優先であること、マニュアルは作るプロセスに魂が宿ること、他の組織と連携した避難訓練の必要性、学校における最大のミッションは学校の再開であることなど。[防災ノートのねらいと活用]「防災ノート」の特徴は、①突発的事態への対応 ②子どもが考えて書き込むこと ③目的指向であること。単に「わかっている」ところから自分に置き換えることで、行動に移せるようになることをめざすのが「防災ノート」である。授業での活用への大きなヒントになった。
【9月:授業研究会】校内研修に「防災ノート」を活用した授業実践を位置づけ、校内での指導案検討会を経て、3年生「自分の身は自分で守ろう」、6年生「生きる~津波・地震から身を守る」の公開授業を実施した。3年生は非常持ち出し袋について話し合うことで、6年生はタウンウォッチング・防災マップ作りを通して、それぞれ自分の身を守るための心がけについて学習した。3年生の授業については、「学校防災・減災教育フォローアップ研修会」として市教委から市全体に参加を呼びかけ、校外から小中学校教員の参加があった。助言者として、川口先生をお招きし、実際の授業における「防災ノート」の活用について研修をした。川口先生からは、「こうなったら、こうしなさい」という固定的な姿勢からの脱却を図るのが「防災ノート」を使った学習であることを、具体的な授業場面を元に教えていただいた。
【10月:児童引き渡し訓練】大地震後に津波警報が発令されたという設定で、児童を保護者に引き渡す訓練を行った。実際の災害時には自家用車が使えなくなる、携帯電話やメールでの連絡ができなくなるなど、想定される条件を考慮して訓練を行った。
【12月:防災教育授業参観、防災教育講演会】校内研修における授業公開を踏まえ、授業参観日に全校一斉に防災・減災教育の授業を実施した。その後、児童と保護者を対象に「南海トラフ地震に備える~子どもたちの命をまもり、次につなげるために~」と題した川口先生の講演会を行った。参観授業の内容は、以下の通りである。1年生「学校からの帰り道で大地震が起こったら」2年生「家にいるときに大地震が起こったら」3年生「外に出かけているときに大地震が起こったら」4年生「学校からの帰り道で大地震が起こったら」5年生「帰り道で危険なところは?」6年生「ダイヤル171」
【1月:岩手と三重の子ども達からの防災メッセージ】みえ防災市民会議主催の公開シンポジウム「子ども達が感じた東日本大震災とこれからの防災」が本校の校区にある安楽島公民館にて行われた。三重県とつながりの深い岩手県山田町の子どもたちを招き、被災した当時のこと、またその後の復旧・復興する町に住んで感じる課題について語ってもらい、来るべき南海トラフ地震に活かせる身近な教訓を学ぶ機会となった。参加した安楽島子ども会代表の児童は、日ごろの地域での活動や普段気をつけていることを発表した。
【2月:ゲストティーチャーによる防災・減災授業】5、6年生を対象にした実践、体験的な内容の授業を行った。災害時に役立つ新聞紙スリッパなどを作成したり、非常食の調理法を学んだり、ガラスの破片に見立てた卵の殻の上を歩く体験をしたりした。

2)9月研修会での学びから自校の実践に活かしたこと、研修会を受けての自校の活動の変更・改善点、
  昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点、助成金の活用で可能になったことなど。
○昨年度までは、年に3回の避難訓練を行うのみで、特に防災・減災教育を重視しているとはいえない状況であったが、本事業を受けるにあたり、計画的に研修や授業を進めることができた。
○助成金により外部講師の招聘が可能となった。
○9月の研修会で学んだことを自校で還流することにより、教職員の防災・減災に対する意識が高まった。また、被災地で見聞きしたことを授業で取り上げることで、児童へ返していった。

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
○全校で授業公開や研修、講演会等を持ったことで、教職員・児童・保護者の防災・減災意識の向上に役立った。
○「防災ノートの活用」を意図的・計画的・系統的に、進める素地が整った。
○教員の「防災ノート」に対する理解が深まり、適切な授業構成や指導方法を考えることができるようになった。

児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
○実際に大地震が起こったり、津波警報が出たりしたときに、どのように行動し、また、どこにどのように避難するのか、避難するときに何を持っていくのか等、子どもたちなりに考え、意見交流し、さまざまな価値観について共有する中で、「災害発生時に自分の命を守るために自分自身がどこまでベストをつくせるか」を考える機会となった。
○各学年の発達段階に応じた防災・減災教育(防災ノートを活用)を推進することで、子どもたち自身に「災害とどのように向き合ったらよいのか」を主体的に考え、自分で判断し行動することの大切さがわかった。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
○防災・減災教育の授業や講演を通じて、地域や保護者に学校の防災・減災に対する取組を伝えるよい機会となった。保護者アンケート「学校は、台風・地震などの災害時や不審者の対応について指導している」については、「そう思う52%、大体そう思う39%」と昨年度より上がっている。
○各家庭において実際に、非常持ち出し袋を準備したり、学級通信に紹介されている子どものふり返りをもとに家族で災害や避難行動について話をしたりするようになった。

4)実践から得られた教訓や課題と今後の改善に向けた方策や展望
○鳥羽市全体での一斉避難訓練を毎年行なっているが、住民の参加率はまだまだ高いとは言えない。実際の津波注意報での避難率は県下では高い方であるが、十分であるとは言えない状況となっている。大人に向けた啓発、避難訓練をどれだけやっても、防災・減災意識というものはなかなか高まっていかない。大人は経験上、「自分は大丈夫、この地域は大丈夫。」という意識が働く。しかし、子どもが防災・減災教育を受けることで、子どもの意識が高まれば、ともに生活する大人の意識を変えることにつながっていく。今年度の実践から、保護者へは子どもを巻き込んだ啓発が有効的であることが分かった。
○保護者・地域とともに防災教育を進める取り組みはまだ十分とは言えない。いっそう地域へ出かけ、地域の方々とともに取り組む必要がある。
○防災・減災教育を全学年を通じて系統的、継続的に行うための防災カリキュラムや全体計画を早く完成させなければならない。防災ノート活用については系統的、継続的指導ができるようになったが、他教科にも防災・減災教育の観点を盛り込み、「学校における防災の手引き」(三重県教育委員会作成)のカリキュラムをベースにした系統的指導を軌道に乗せていく必要がある。

活動内容写真

活動において工夫した点

○防災ノートを活用した授業では、児童がノートを持ち帰り、必ず授業前に家庭学習として予習をさせた。子どもだけでは考えにくい内容、例えば各家庭に備えている非常持ち出し袋の置き場所や中身、避難時に誰が持つのか、また、実際にどの経路でどこに避難するのか等、どうしても保護者の助けがないと予習ができない状況を作り出した。防災ノートを媒介として、保護者の防災・減災意識を喚起できた。
○市内小中学校の防災教育担当者を集めて、授業公開および指導法の検討、交流を行った。

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