佐藤さんは特に大仏様をとりまく自然環境の変化に興味をお持ちとのことで、「過去と未来、自然と文化を貫く二軸の交点に大仏様を据え、研究の曼荼羅を描きたい」という抱負を述べられました。
ただ、その一方、大仏様は文化財である前に信仰の対象でもある点を強調されておられました。「真冬の凍てつくような寒さの中でも素足で五体投地を繰り返される敬虔な参拝者のお姿を拝見する度、大仏様の尊厳を傷つけることだけは断じてあってはならないと感じる」と語られました。
学生と共に
専門は考古学。特に遺跡から出土する動物骨や貝殻の分析を通して人と自然との関係史を読み解いておられる佐藤さんは、極東ロシアや北海道でフィールドワークも重ねておられます。
アイヌをはじめとする先住民に調査の協力を依頼することもしばしばとか。虐げられた過去をもつ先住民達が抱える複雑な心情を熟知されておられるからなのでしょう。フィールドワークに帯同する学生達には、彼らに受け入れてもらうために、知より情をもって接することの重要性を諭されるといいます。
アイヌ文化に関する著作が多数あるのも納得です。
社会のために
当協会の活動にも深いご理解をお示し下さり、法人会員としてご賛助賜っております高徳院様。
その社会的活動は、国際交流フェスティバルや各種慈善事業への会場提供、鎌倉てらこやをはじめとする地域教育活動の推進など多岐に亘ります。
そのことをお尋ねすると、佐藤さんは「時代と斬り結び、お寺にでき得る社会貢献を実践してゆくことこそ私達の使命だと考えています。
そうするなか、一人でも多くの方に大仏様に親しみを感じていただけるようになればと願っています」と語られました。
「素敵な方」と評判の奥様について伺った時、終始硬かった佐藤さんの表情が一瞬和らぎました。その奥様との最初の出会いも、大仏殿でチャリティーコンサートを開催した折であったそうです。
境内に出て心新たに大仏様をお参りしました。
「大仏様に親しみを感じてほしい」というお話を思い出しながら。(文・関根 写真・岡野) |