世界遺産基本情報

   いま、鎌倉を世界遺産に登録しようという運動が起こっております。しかし、世界遺産とは何か、を正確に理解しないで、なんとなくわかったつもりの人が大勢います。そこで基本的な情報を、会員の皆様に、ご理解いただくために特集を組みました。
世界遺産とは何か

 一言で言えば、「後世に伝えていくべき人類共通の宝物」と言えます。地球の生成と人類の歴史によって誕生し、過去から未来へ引き継いでいくべき貴重な遺産を言います。世界遺産とは記念物や建造物、遺跡、文化的景観などからなる「文化遺産」、地形や地質、生態系、景観などからなる「自然遺産」、この二つの特質を備えた「複合遺産」の三つに大別されます。毎年開かれる21カ国で構成される世界遺産委員会が、世界遺産条約加盟国から提出された世界遺産登録推薦物件の審議をして世界遺産として決定・登録したものを言います。

世界遺産登録の流れ

 自国の物件を世界遺産リストへ登録する場合、その国は世界遺産条約の締約国にならなければなりません。そして「暫定リスト」を作成し、その中から登録への条件が整った物件をユネスコ世界遺産センター(世界遺産委員会の事務局)に推薦することになります。
「暫定リスト」とは、世界遺産への登録申請に当たり、各国が事前に作成するもので、このリストに登録されていないと世界遺産委員会へ、世界遺産として推薦することはできません。また、世界遺産条約の主目的は、文化遺産及び自然遺産を人類全体の遺産と考え、損傷や破壊などの脅威から保護し、将来にわたって保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立することにあるので、世界遺産として物件を推薦するとき、その物件が自国の法律などで確実に保護される体制が整っていることが必要条件となります。
各国から推薦書を受け取ったユネスコ世界遺産センターは、ICOMOS (国際記念物遺跡会議)やIUCN(国際自然保護連合)などの専門調査機関に、推薦物件が世界遺産になるための条件を満たしているかどうかの調査を依頼します。
 現地調査をおこない、評価報告書を作成し、世界遺産センターに提出されます。評価報告の中身は、「登録基準」との合否、推薦物件の「完全性」「真実性」、物件を取り巻く周辺の利用制限区域である緩衝地帯(バファーゾーン)が設けられ遺産の保全が重層的に図られているかどうか、管理計画が重要な条件となります。
ICOMOSの評価は1)登録 2)情報照会 3)記載延期 4)不登録の4段階に分類して報告書が作られます。石見銀山の場合は、3)の評価、記載延期、再提出が求められましたが、環境保護を全面にプレゼンテーションした結果、世界遺産委員会では全員賛成で登録が決まったのです。
 「完全性」とは、物件に世界遺産の価値を構成する必要な要素がすべて含まれており、長期的な保護のための法律などの制度が確保されていること。「真実性」とは建造物や遺跡が本当の芸術的・歴史的価値、つまりオリジナリティを保っているかどうかが問われます。

世界遺産の「登録基準」

 世界遺産は、最近まで文化遺産の登録基準、自然遺産の登録基準と二つの基準で決められてきましたが、2007年の第31回世界遺産委員会から登録基準は一本化されました。
1)人類の創造的才能を表す傑作。
2)ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えたもの。
3)現存する、あるいは既に消滅した文化の伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠をしめすもの。
4)人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体や景観の見本。
5)ある文化を特徴づけるような人類の伝統的集落や土地利用の優れた例。特に歴史の流れで、その存在があやうくなっている場合。
6)顕著で普遍的な価値を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接的または明白関連があるもの。
7)類例を見ない自然美および美的要素をもつ自然現象や地域。
8)生命進化の記録、地形形成において進行しつつある重要な地質学的過程、あるいは重要な地形学的、自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例。
9)陸上、淡水域、沿岸および海岸の生態系、動植物群集の進化や発展において、重要な生態学的・生物学的過程を代表する顕著な例。
10) 学術上、あるいは保全上の観点から、顕著で普遍的な価値を持つ、絶滅のおそれのある種を含む、生物の多様性の野生状態における保全にとって、もっとも重要な自然の生息地。
鎌倉が基準をどのくらい満たしているかを、私個人の意見ですが、
検討してみると、1)、2)、3)、4)、5)、6)、が該当するとおもいます。

鎌倉を世界遺産に登録する 運動の現状

 鎌倉は国内ではまれに見る遺跡と歴史の町です。1992年(平成4年)日本からユネスコ世界遺に記載され、以後史跡の学術調査が進められてきました。
 2004年(平成16年)基本的な考え方が「武家の古都・鎌倉」で行くことが決まりました。
 この「武家の古都・鎌倉」は、さきに世界遺産に登録された京都・奈良を意識して違いを出した考え方です。鎌倉は武家自らが初めてつくった政権都市であり、三方を山に囲まれ一方は海に開けるという地理的環境を活かした独自の都市構造を持っています。
 鶴岡八幡宮は鎌倉の中心にあり、その参道である若宮大路は都市の機軸となりました。周囲の山には交通路とした「切通」が造られ、自然環境を活かした谷戸に寺社や武家の館が建てられました。
 鎌倉で生まれた幕府という武家政治の仕組みは、以後の武家政権の基礎となり、禅宗をはじめとする中国文化を導入し発展した独自の文化は、永く日本の政治や社会に大きな影響を与えました。
 2007年(平成19年)世界遺産への登録をめざして国指定史跡として23ヶ所をあげました。
詳細は鎌倉世界遺産登録推進協議会発行の[武家の古都鎌倉MAP]をごらんください。

<登録候補地>

武士の神社信仰として
@鶴岡八幡宮 A若宮大路 
B荏柄天神社
鎌倉武士の仏教信仰として
C建長寺 D円覚寺
E寿福寺 F瑞泉寺
G鎌倉大仏 H覚園寺
I浄光明寺 J称名寺(横浜)
鎌倉時代の寺院跡
K永福寺跡 L法華堂跡
M東勝寺跡 N仏法寺跡
武家の館跡
O北条氏常盤亭跡
最古の築港跡
P和賀江嶋
切通(きりどおし)
Q朝夷奈切通  19名越切通
S亀ヶ谷坂  21仮粧坂
22大仏切通  23一升桝遺跡
いまは、上記の候補地の史跡指定・保存管理計画の作成を進めている状態です。昨年末新聞で報道された、職員による、数ヶ所の地権者の承諾書を偽造という事件が起こりました。冷静に考えてみると職員のあせりの結果であり、世界遺産の価値の問題とは違う手続きの問題です。

<世界遺産Q&A>

 ヨーロッパの世界遺産「石の文化」を見てきた鎌倉市民は、鎌倉には鎌倉時代のものは残っていないと、言います。
 日本が世界遺産条約に加わってから、いわゆる「木の文化」に対する認識が変わりました。木の文化に、プラス「伝統の技術」が加わることによって世界遺産としての価値が認められ、登録されるようになったのです。確かに鎌倉時代の建造物は少ないですが、伝統の技術は活きているのです。

 「木の文化はプラス伝統の技術」といわれますが、もう少し具体的に説明してください。
 日本の寺社の建築に携わる宮大工の仕事を思い出していただくとよくわかります。例えば、屋根の葺き替えを行うとき、全面的に直すのではなく、必ず一部分を残しておきます。設計図の無い時代から、この伝統は残っており、次の葺き替えのとき、宮大工さんは、二代にわたる技術を目にして技術の確認をして修復していくのです。

 鎌倉の申請が遅れているのは、世界遺産の価値が無いからではないですか。
 京都や奈良の文化遺産に比べると、鎌倉の文化遺産は国の保護が遅れていました。このため国指定史跡の指定や保存管理計画の策定などが必要となり準備に時間をとられていることは事実です。

 「切通」など京都や奈良にない土木遺構が登録の候補になっておりますが・・・・・。
 頼朝が、幕府を開くにあたり、三方山に囲まれて海に面した土地を選んだのも、また「七つの切通」を通らないと鎌倉に入れないようにしたのも、武家政権の特徴と言われております。大仏の切通を例にとると、騎馬武者が一騎通れる幅しかなく、真ん中でクランク状に曲がっております。スピードを上げて鎌倉に攻め入るはずの騎馬武者は、切通ではスピードを落すことになるし、徒歩武者が騎馬武者をしとめることが出来るのです。このクランク状に道を曲げる工夫は、歴史的にも面白い日本人の知恵です。鎌倉時代の欧州では王宮までは直線で行けるようになっておりましたが、道が曲線になるのは14世紀に入ってからといわれております。日本人の知恵はすごいですね。

 確かに周辺の町に比べれば、緑は多いが、町の中心部はクルマの渋滞で住みづらくなっている。
 交通渋滞は、鎌倉の地形から見て宿命的な問題。この問題は世界遺産とは関係なく、いままでも、これからも解決しなければならない問題です。世界遺産の問題は鎌倉に住む人々が、自分達の住んでいる土地は歴史と遺跡の上にあるという認識を持ち、かけがえのない鎌倉をそのまま次の世代に残すことなのです。

 世界遺産登録後、ユネスコ会員は何をすれば良いのですか。
 登録の条件の一つに、管理計画があることをお話いたしました。管理計画の中心は地元の人たちで、登録後は地元の人々の理解と努力が何よりも大切になってきます。バッファゾーンに住む人は、規制を守り、世界遺産保存のために、住民としての役割を理解し、担っていただきたいのです。

[参考文献・世界遺産年報2007No.12,2008No.13、武家の古都鎌倉MAP 鎌倉世界遺産登録推進協議会発行]    (鴇澤)

 

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