ユネスコサロン

今見直される「原子力発電」

今回の講師は当協会理事の渡部研自さん。渡部さんは、原発問題を深く考察されて講師の渡部研自さんこられただけに、そのお話は簡にして要、かつ門外漢にも大変わかりやすいように工夫いただいたので、原発問題に関心が高い我々一同にとって非常に有益な機会となりました。ご講演の順での要点は以下の通り。

1.UNESCOのSは科学のS

 原子力は20世紀を代表する科学であるが、不幸にして最初に原子爆弾という形で世に出てしまった。そこで、世界の平和の実現を目指して発足したUNESCOの組織名称に「教育」のE、「文化」のCに加えて、「科学」のSが入れられた際には原子力が強く意識された。

2.原発の何が見直されているか

 原発の恐ろしさをまざまざと知らしめたチェルノブイリ原子力発電所の事故が極めつけとなって、世界の人々に強烈な原発アレルギーを引き起こしていたのに、このところ急に「原発回帰」ムードへ風向きが変わってきた理由は何か。
急速に注目が高まっている地球温暖化問題が背景にある。石炭、石油等に頼って電力を得てきた従来の方式の最大の課題である一酸化炭素の排出量が、原発ではほぼゼロとなるからである。
 世界一の原発国で、現在103基が運転している米国では、1979年のスリーマイル島原子力発電所の事故以来、現在までに新規に建設されたものはひとつもない。
その米国が原発新設再開を宣言し、かつ原子力先進国6ヶ国(米英仏露中と日本)による「国際原子力共同事業」構想を発表した。
その中には、固有安全体系を持つ、すなわち事故時に自ら核分裂を止めることができる、第四世代原子炉の開発も含まれる。また、原子力後進国の原発の新設・増設は中国において顕著である。
このような各国での原発建設拡大の流れは、原子炉本体の製造がなくなって技術開発が止まっている米国に対し、米国から技術導入してその後技術を蓄積してきた日本の東芝、日立、並びに三菱重工には、有利なビジネス環境をもたらしている。

3.原発のマイナス面の見直し

 しかし、依然として原発は完全に安全とは言えない。その面での目下の見直しの焦点は、柏崎刈羽原子力発電所の中越沖地震の際のトラブルが記憶に新しい。
直下型巨大地震への対策。今後すべての原発において耐震対策が見直されると思われる安全性評価が、コストの視点からその厳密性が弱まることがないよう願いたい。
もう一つは放射性廃棄物の問題。
これは使用済み放射性核燃料を再利用する核燃料サイクルとその後に残る高レベル放射性廃棄物の処分、並びに老朽化原発そのものの廃炉処分の問題に分かれる。
そのためには高速増殖炉の開発、最終廃棄物の安全処分、所要コスト、など今後解決していかなければならない難問をまだまだ多く残している。

4.まとめ

 核分裂反応の原子力、更には将来の核融合によるエネルギーは、遠い将来、これまでのエネルギー資源が枯渇しても人類が生存し続けることを可能ならしめる、人類が獲得した貴重な財産である。従って、そのマイナス面の対策に向けて、安易に妥協することなく、今後、人類の英知が益々、発揮されなければならない。(石田)

 
 

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