当協会が創立20年の節目を経て今年からどのような新たな一歩を踏み出すべきかについて、9月6日(日)に実施した会員研修会で議論した。今回の研修会では、【ユネスコ50年の歩みと展望】(1996年、野口昇著)の中で引用されている西島安則・前日本ユネスコ国内委員会委員長のお言葉「ユネスコに与えられた使命は永遠に疑問符を示し続けることである」に従い、ユネスコ精神を学び直した。このお言葉は、個々の宗教、主義、文化等の違いを超えて共生しようとするユネスコ精神の実践がいかに困難かを語っておられるのであろう。ユネスコ選書【平和の哲学】(2000年、俵木浩太郎著)は、【論語】が人間は「性善」であると述べていることに期待を寄せているが、人間が「性善」であるとしても、日々行動する上の哲学を必要とすると考えられるからである。
この点に関して、ユネスコ初代事務局長のジュリアン・ハックスレーの著作を今一度、想起してみよう。1946年第1回ユネスコ総会に提出されたが、当時ユネスコの場でもイデオロギー主導権争いが激しかった中で、加盟国代表からの反発があって採択されるには至らなかった【ユネスコの目的と哲学】(1950年、上田康一訳)<写真参照>、並びに15年後の1961年、その考え方を発展させた自身の論文に、25名の専門家による関連諸分野の論文を加えて編集した【ヒューマニズムの危機】(1964年、日本ユネスコ協会連盟訳)である。
前者の翻訳書には、民間ユネスコの草分けとなった仙台ユネスコ協力会の土居光知会長が「本書は、ユネスコの精神、その事業の全人類的意義を理解するための最も基礎的な論策である。」との序文を寄せた。また後者は、日本ユネスコ協会連盟編【民間ユネスコ運動60年史】によれば、上記土居光知・東北大学名誉教授を委員長として坂西志保、時実利彦、森戸辰男、東畑精一等の綺羅星の委員からなる翻訳刊行委員会を発足させて翻訳に当たったことに表れているように、日本ユネスコ協会連盟として熱烈に受け止められた。
日本に民間ユネスコ活動が定着した今日となって、立ち上がり期のその熱気が冷めている感があるのはある程度やむを得ないが残念でもある。
【ヒューマニズムの危機】が発刊された当時は、世界の人口はまだ約28億人、米ソ冷戦のただ中で、中国人民共和国は依然国連に参加していなかった。それから約50年が過ぎて、国際政治力学が大きく変わった結果として民族・地域紛争が多発しており、一方で環境・エネルギー危機、飢餓人口の増加等での地球規模の持続可能性への危惧が高まっている。この新たな世界でユネスコ活動に携わる私たちが、ハックスレーが願い求めた人権尊重と人間賛歌のヒューマニズムを志向することを改めて確認したい。 (石田)
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