備後地域の自然災害の実地調査を含む,防災・減災リテラシーの育成

広島大学附属福山中・高等学校

活動に参加した児童生徒数/中1~高2学年15人
活動に携わった教員数/3人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/700人

実践期間2015年6月10日~2015年12月25日

活動のねらい

広島県では2014年の土砂災害の記憶が新しく,また土石流危険渓流や急傾斜地崩壊危険箇所などの土砂災害危険箇所が全国で最も多い県でもある。当校の位置する福山市では,地域を探ると数々の過去の災害の痕跡が認められる。それらの現地調査を含む活動を通して,災害を科学的に理解し,科学的な根拠に基づいて行動することができる防災・減災リテラシーを育成し,活動の結果を発信していくことを目的とした。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
7月末:当校付近の土砂災害危険区域・急傾斜地崩壊危険箇所の実地調査を行った。
8月はじめ:広島大学より講師として熊原康博先生をお招きし,地域の過去の災害痕跡(土石流痕,断層など)の実地調査を行い,歴史的にも地震や土砂災害が複数回発生していることを確認した。
9月末:福山市立大学において開催された「ふくやまサイエンスフェスタ」にて,防災ポスター,パンフレットを用いて,学んだことをもとに生徒たちが防災・減災に関する広報活動を行った。
10~12月:地域の中学校理科教員の集まりである「福山理科の会」にて,実践報告および防災・減災教育についての研修および議論を行った。

2)9月研修会での学びから自校の実践に活かしたこと、研修会を受けての自校の活動の変更・改善点、
  昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点、助成金の活用で可能になったことなど。
研修会の内容を鑑み,自校内の防災対策・意識向上だけにとどまるのではなく,広く地域へ情報を発信し,防災・減災について考えてもらう機会と場を作るよう心がけた。
助成金を活用して大学から講師を招くなど,生徒たちが専門的知識を習得することで,興味関心が高まったと思われる。また,地域への発信という面では,助成金を活用してパンフレットを作ったことで,地域のサイエンスフェスタでの大規模な広報活動が可能となった。

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
一般に「災害が少ない」と思われている備後地方(広島県)であるが,実際は土砂災害の多発地域であり,災害はすぐ身近なところに潜んでいる…という住民の意識と実際の状況とのギャップを捉え,広報活動を通じてギャップの是正に取り組むことができた。
また,地域(福山市)では市役所や国土交通省の出張所を中心として土砂災害や河川浸水のハザードマップを作成している。ポスター,パンフレットを作る際にこれらのデータの提供を受け,そこに実際の災害痕跡の情報や生徒たちが活動を通じて得たものを加えて,災害に対する備えを呼びかけることで,地域防災情報の再発信を行うことができたと考えている。

②児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
実際に急傾斜地崩壊危険箇所や,過去の災害痕跡(土石流痕・断層)を目にすることで,「何(災害の要因)が危ないのか」「なぜ(災害時の状況の想定)危ないのか」を考え,発見し,説明(考察)する力を養うことができた。また,ポスター・パンフレットを用いて対外的に説明をするなかで,生徒たちが防災・減災の重要さを再確認し,学習の成果を自分たちの言葉で表現し,説明しようと試みる姿勢が見られるようになった。
当校教員や専門家による講義によって災害に関する予備知識を身につけ,実際の現場(現象・状況)を見て災害を予想し,それをまとめ,地域に向けて発信するという活動を行う中で,生徒たちの防災・減災に対する意識と知識を深めることができたと考えている。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
福山サイエンスフェスタではポスター掲示およびパンフレット配布を行い,地域の小学生およびその保護者を対象に防災・減災についての啓蒙・広報活動を行うことができた。これらの活動を通して,今一度自宅や職場など「生活圏」の防災情報を確認してもらえ,いざというときの備えに対する地域の方々の意識を高めることができたと考えている。
また,地域中学校理科教員の集まりである「福山理科の会」での防災・減災に関する議論を通して,地域の理科教育にも防災教育を積極的に取り入れていく素地を作ることができた。地域の子供たちに防災・減災意識を根付かせるためには,地域の教員ネットワークの力が不可欠である。当プログラムで研修を受けた教員が,その成果を少しでも地域に還元することができた意義は大きいと考えている。

4)実践から得られた教訓や課題と今後の改善に向けた方策や展望
やはり,「中国地方(特に瀬戸内海側)は災害が少ない」という意識は根強く残る。今回の研修会の内容や,実践に対する地域の方々の反応を鑑みると,地域の災害や防災に関する情報を発信し,もしものときに向けたシミュレーションを繰り返すことで防災意識の全体的な底上げを図る必要性を感じた。そのためには防災を理科だけの教育内容と考えるのではなく,他の教科の教員や地域と連携し,教科横断的に多角的・総合的な視点から災害を「その地域に起こりうる自然事象」として捉え,広く周知していく必要があると考える。

活動内容写真

活動において工夫した点

前述のように,活動から得られた知識や経験を生徒たち自身の言葉で地域に発信する機会を設けた点,および教員ネットワークを利用して,地域で防災・減災教育について考える中心としての活動を行うことができた点である。これらの実践を継続して行うことで,地域に根差した防災・減災教育の拠点としての役割を担うことができると期待している。

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