災害時帰宅支援ステーションの役割を担う都立学校における生徒の共助力の養成

東京都立浅草高等学校

活動に参加した児童生徒数/2学年165人・3~4学年37人
活動に携わった教員数/35人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/25人

実践期間2019年4月1日~2020年3月31日

活動のねらい

都立学校は「災害時帰宅支援ステーション」としての役割を担うことになっている。都内でも有数の観光地である浅草に最も近い都立学校である本校は、東日本大震災の発生時には3 0 0人を超える観光客を中心とした帰宅困難者が身を寄せた。また、午前部、午後部、夜間部から成る三部制の定時制高校である本校は、深夜から早朝を除いたあらゆる時間帯に大地震が発生しても、生徒が在校していることになる。
震災時に学校に居合わせた生徒は、生徒相互の支え合いだけでなく、場合によっては教員の監督、指示の下で、学校に避難している多数の帰宅困難者を支援する役割を担うことになる。災害発生時の自助と、体制が整ってからの公助との間をつなぐ、「災害時帰宅支援ステーション」における生徒による共助の力を育成することは、本校において必要性、喫緊性ともに高い課題であると考えている。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
<3~4年次選択「人間と社会 ボランティア体験」、週2時間授業(前期のみ)、2展開>
(7月)  ・普通救命講習(90分×2回)、
・防災に関するビデオ学習「東京マグニチュード8.0」
(9月)  ・NHKティーチャーズ・ライブラリ収蔵ビデオ教材の視聴
       「クローズアップ現代 子どもたちが綴(つづ)った大震災」
       「NHKスペシャル防災力クライシス そのとき被災者を誰が救うか」
       「クローズアップ現代 首都直下 震度7の衝撃~どう命を守るか~」
<2年次必修授業「人間と社会」、週1回授業(通年)、クラスごと1展開で計8展開>
(11月) ・NHKティーチャーズ・ライブラリ収蔵ビデオ教材の視聴
       「証言記録 東日本大震災 宮城県南三陸町~高台の学校を襲った津波~」
       「クローズアップ現代 首都直下 震度7の衝撃~どう命を守るか~」
(12月) ・「災害時帰宅マップ」の作成
(1~2月) ・普通救命講習(45分×4回) *教員も受講→「救命講習受講優良事業所」の認定(申請済)

2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。     昨年度まで(助成金・研修受講前)と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
・教員そして生徒が、震災はいつでも起こるもの(階上中3年生のメッセージ)との意識を常に持ち、災害に 居合わせた当事者として如何に考え、行動するかを考えさせることを、減災教育の中心に置くことになった。
・「ボランティア体験」…来年度の受講者が普通救命講習の既修者になるため、上級救命講習へ移行を準備中。
・「人間と社会」…今年度以降、2年次全生徒と教員(任意)が普通救命講習を受講できる体制を確立できた。
・助成金の活用によって、救命講習テキスト複数冊を学校の蔵書として整備し、教員の受講が可能となった。
これに伴って、「修了者が従業員の3割超」という東京消防庁の条件を満たし、「救命講習受講優良事業所」としての認定を受けることになった。(現在、申請および受理済)

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
 「人間と社会」は、「人間としての在り方生き方関する教科」として、全都立高校において必修科目とされている。本校では、平和教育として3年次の沖縄修学旅行で奉献する千羽鶴の作成を中心に展開されてきたが、今年度からは本来の趣旨に立ち返り、平和教育(年間5時間、以下同)、キャリア教育(4)、地域理解(3)、奉仕活動(2)、対人理解(2)、減災防災教育(8)といった体験学習を中心とした総合的な内容を扱うこととした。9月研修会で得られた知見を担当教員間での共有を経て生徒に伝えたり、助成金による購入教材を充実させたりすることにより、実施時数や内容について、ほぼ全面改訂ともいえる大幅な改善を果たせた。

児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
 (ビデオ教材を視聴した感想として)「学校が震災現場となった場合に、どんなことが起こるのか。避難者としてだけではなく、避難所の高校の生徒として何をしたらいいのかを考えるきっかけとなった」「(津波で同僚を目前で亡くした教員に対して)助かったのだから、その人の分も懸命に生きるのが気持ちに添うことになる」「他人を踏み台にしない前提で、自分が助かるために最大限の努力をすることが大切」、(災害時帰宅マップを作成した感想として)「大きな川に架かる橋や、ガラス張りのビルなど、大きな地震後には通れなさそうな帰宅経路もありそう。何通りか考えておく必要があるのでは」「避難所や救護所になる途中の学校や病院の位置を知っておく必要がある」、(救命講習の感想として)「震災時だけでなく、急病に居合わせた時に役立てたい」。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
・(既述)多数の教員も普通救命講習を修了し、学校として減災力を高められた。
・2年生8クラスに各4回ずつ救急隊員を派遣していただいた日本堤消防署との連携、交流、本校と生徒への理解が深まり、次年度に向けた授業改善や新規授業内容に向けて全面的な協力を得られることとなった。

4)実践から得られた教訓や課題と次年度以降の実践の改善に向けた方策や展望
・消防署との協議により、救命講習に加えて水害や震災に関する講話を実施する方向で準備中である。
・必修授業では普通救命、選択授業では上級救命を実施し、教員も受講できる方向で消防署と協議中である。
・年度途中でのプログラムへの参加と助成決定であったため、助成金で購入できた「避難所HUG(避難所運営ゲーム)」等をフル活用できる時間的余裕がなかったが、次年度以降、十分に活用していくことにする。

 

活動内容写真

活動において工夫した点

・生徒には体感が難しい震災の記憶については、NHKティーチャーズ・ライブラリを中心とする良質なビデオ教材を活用することによって、仮想的、疑似的に追体験をさせることができた。
・「マップ」作成にあたっては情報科の協力を得てデータの打ち出しを行い、教科を超えた指導体制を組めた。
・救命講習の講習料金の実態は講習テキスト代であって、学校が蔵書すれば教員間で共有使用することにより、5年毎の教材の改定までは、公費予算を組まなくとも教員が生徒とともに救命講習を受講できるという助言を
消防署から受け、変則的な校内研修として、教員が受講、修了できる体制を組むことができた。

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