文明間の戦争を許すな
 
麗澤大学教授・目黒ユネスコ協会顧問 服部英二
 
 7世紀、経典を求めて天竺へ旅立った玄奘三蔵は、バーミアンの地で金色に輝く大仏を拝したという。その大仏が今アフガニスタンの90%を征圧した革命勢力タリバーンによって完全破壊されようとしている。大仏だけではない。この原理主義運動の指導者オマル師はイスラムの教えに従い同国内のすべての偶像を破壊すると言明、カブール博物館の爆破等、それは既に始まっている。人類史上特筆すべき東西の文化の出会いの結晶であるガンダーラ美術の数々が今失われようとしている。
 文化財赤十字運動を提唱する平山郁夫画伯による世界の八つの主要博物館長との連名の緊急アピール、ユネスコ松浦事務局長特使の現場入り、日本の三名の国会議員の直接交渉の試み等、この暴挙を阻止せんとの懸命の努力が続けられている。しかし果たしてイスラムの犠牲祭が明けた時、タリバーンは破壊を停止するであろうか。
 注意すべきはアメリカを筆頭に西欧諸国がタリバーンをテロリストを擁護する原理主義者として包囲し、窒息させようとしていることだ。この結果政治に関係ない百万人の民が飢餓線上をさまよっている。
 いま必要なのは政治と宗教を越えた対話だ。純粋培養された原理主義者たちを犯罪者と決めつけたら、あとは「文明間の戦争」しかない。対話は必ずやすべての人間に内在する理性を目覚めさせる。ハンチントンが画いた悪夢の構造を現実のものとしないだけの英知を人類は持っているはずだ。 (2001.3.8,記


    ご承知の通り、この原稿が書かれた直後の3月11日、破壊は現実のものとなりました。
   この件に関しその後、服部氏は詳細な記事を時事解説に寄せられ、時事通信社のご厚意でその全文の転載が別項に記載されています。ご参考にして下さい。(広報委員会・注)

ユネスコ(パリ)のホームページから転載
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