リトリート報告(前号のつづき) 
 今年のリトリートは7月26日〜28日、例年通り長野県・和田村で行われた。
この号では、服部英二氏の講義の要約と田島重雄顧問の報告を掲載する。 
 
 講義は人類が経験した五つの革命の説明から開始した。
 『第一の革命は、人類革命といわれるもので、人類が猿から分化した時。今から約500万年前に人類は初めてオーストラロピテクスとして猿から分離した。これはひとつの革命であったといえる。
 第二の革命は、1〜1.2万年前に起こったと考えられる、農業革命である。人類は初めて農耕というものによって、飛躍的に人口を増やすことができた。これは人間が採取活動をやっていく本当に大きな革命であった。
 第三の革命は、約5000年前に起こった、都市革命。人類の生活のなかに、直接、食料の生産に携わらない人々が現れたということである。
 第四の革命は、2500年ほど前、精神革命である。この頃期せずして、人間の良心というものを問う思想家が生まれた。孔子、ブッダ、ソクラテスなどがほぼ同時期に共時性をもって現れ、人間の心の中に神を見出すといってもいい非常な精神の追求がなされた。人類が本当の人間らしく、人間のモラルを追求した時期である。
 そして第五の革命は、17世紀、科学革命である。これは先の革命のように共時性を持たず、ヨーロッパのみに起こった。科学革命は産業革命となり、ヨーロッパの世界支配へと繋がることになる。このヨーロッパの世界制覇から約300年が過ぎ、現在に至っている。この300年の時代が人類に何をもたらしたかというと、文明の増大であり、非常な便利さの追求であった。』
 
 『文化とは、民族独自のエイトスである。価値観、何が美しいか、何がよいかということ、そういうものが各民族の心に宿っている。それが文化である。それに対し文明とは、それが制度をもってくることをいう。共同体が上手に生活するための法律や制度といった、インスツールメントである、といっていい。』
 
 『17世紀の科学革命以降の世界、文明というものがどんどん進展していった一方で、文化−人間の心の問題−は進歩せず、貧困になっていった。大切な人間の心、文化の問題を犠牲にしてきたのは文明であり、内面が貧困化、外面が肥大化している。これが何を生み出したかというと結局、戦争であり、破壊であり、そして環境の破壊となっていった。いま地球を壊そうとしている文明というものを、「木を切る文明」と定義したい。17世紀の科学革命に始まるひとつの考え方、デカルトやベーコンという人々が定義した「人類は自然を支配する権利を有する」という価値観である。19世紀には「進歩」というのは至上の価値であった。しかし、これが世界を破壊している。』
 
 『今、我々はその観念自体を反省しなければならない。進歩とは本当に人類の幸福につながるのか。進歩というものは人類史を矢のように運ぶ。過去から未来へと真っ直ぐに進む時間論の上にのみ成り立つものであるからである。この直線的な時間論というものは、普遍的な時間論ではない。循環する時間、輪廻、時間は輪を描く、時間は円を描くという、いわゆる曲線の時間論というものが、すでに世界に共時性をもって共有されていた。最初に述べた五つの革命は、不思議なほど共時性をもって同じこの時間論をもっている。この時間論を持つ文明は、「木を切る文明」ではなく、「森に神宿る」という文明である。神霊(ヌミナ)という思想であり、世界中、八百万の神と生きていた。』
 
『「森に神宿る」文明・価値観を、17世紀の科学革命が変えた。その新しい価値を皆が元々の価値だと信じて突き進み、地球を破壊し、戦争をし、互いに殺し合う世紀を迎えた。現在、世界には暴力が増大している。コソボ、チモール、スリランカ、インドネシア、ルワンダ、アフリカ、南アメリカ・・・それまで平和だった国、あらゆる大戦がそこから始まるという火薬庫バルカン半島から遠く離れたところでも、暴力に満ちている。日本もまた、少年非行という個人的ではあるが、非常に異常な形の犯罪という形での暴力が発生している。日本もまた問題の外にいるのでなく、中にいる。こういう暴力が発生するという現状を、その原因をこれから皆が考えていかなければならない。』
 
 講義はここで、イースター島がモアイという巨石文明を持つ豊かなところであったのに、木を切り尽くしたために滅亡したという海洋学者クストーの警告にふれ、目下の地球が同じ轍を踏む危険について話された。
 
 『ひとつの問題は、人類は、与えられた地球という空間、「地球号」という惑星の上の限られた資源で生きていかなければいけないということである。地球は本当に21世紀の最後まで生きのびるかという差し迫った問題になっている環境問題を考えなければいけないし、また、環境問題を考えるときには、人口問題を切り離してはいけない。』
 
 『2050年には90億という、地球の限界に極めて近い人口になるといわれている。人類が100億になったときには、地球上にある人間に必要な資源(水、食料、エネルギーを生み出しているオイル、石炭など)を、地球は必要な量を絶対に供給できない。すると何が起こるか。今すでに起きている民族紛争が激化する。暴力はもう起こってはいるが、ものすごい形の暴力が近い将来に到来する可能性がある。今までの暴力のように民族間に止まらず、自らの生き残りをかけた戦いであり、非常に悲惨な形になる可能性がある。』
 
 留学生のために、ときおり、英語でも熱弁をふるわれた講義は次のように締めくくられた。
 
 『我々は、第六の革命に成功しなければならない。それは「環境革命」である。科学革命が起こした重大なミスから、もっと人間の本来の姿、循環の思想に還ろう。木を切るのではなく、森に神宿る、自然は木を切る対象ではなしに共生すべき、我々と共に生きる、つまり我々は自然の中にいる、自然の一部であるという認識に還るという革命である。循環と再生の思想と言い直してもよい。そのことに成功しなければ21世紀末を待たずして人類は滅びる。』
 
 『ユネスコは、国連の機関の中でただ一つ、心の問題を取り扱っている。それには、すべての人々の参加が求められており、すべての人々の意識の改革が必要である。そこに目黒ユネスコのような協会の存在意義もある。皆さん一人一人の意識の改革が、すべての出発点であることに心されたい。』
要約・文責 奥澤行雄
なお全文のテープ興しを吉沢弘貢さんがしてくださいました。

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