No.191−1

アメリカのユネスコ復帰に思う
麗澤大学教授 目黒ユネスコ協会顧問 服部英二
9月12日、ブッシュ大統領は国連総会での一般演説の冒頭「米国はユネスコに復帰する」と言明した。恰も「目黒ユネスコ・ショートニュース」(2002年6月号英語版)での加藤玲子会長の米国民への呼びかけに呼応したかの如くにである。このことを喜びたい。しかし、である。
アメリカはあく迄も一加盟国としてユネスコに復帰するのでなくてはならない。世界の独裁者でも警察でもなく、一市民として再びユネスコ活動に参加するのでなくてはならない。
84年の脱退時にアメリカが挙げた理由には三つあった。第一は「ユネスコの政治化」、即ち当時のムボウ氏率いるユネスコがソ連寄りに傾き、これに第三世界が同調して、お金を出している西側に不利な自動的絶対多数が形成されている、という非難。第二は「新世界情報秩序」、即ち情報の一行通行の是正が報道の統制につながるという懸念。そして第三は人事を含む当時のムボウ事務局長の放漫経営(mis-
management)であった。
この第一点は90年ソ連陣営の自己崩壊によって消滅、第二点はマイヨール事務局長が凍結したことで無くなり、第三点は松浦晃一郎氏の事務局長就任以来の決断ある内部改革で解決した。氏の労を多としたい。
従って既にクリントン大統領の末期、アメリカがユネスコに帰る条件はととのっていたのだ。それを足踏みさせて来たのは、年6000万ドルという分担金に比しての米国民一般の無知と無関心である。
クリントンの国際協調路線から一転、単独行動主義(Unilateralism)を明確に打ち出したブッシュ政権の方が、ユネスコへの復帰を決めたのは何故か?それにはやはり9・11事件のショックがある。この時米国は愕然として国際社会の協力の必要を知った。そして特にユネスコは国際世論が形成される場である。
アメリカは世界の友として、この場でその世論形成に参加し得る。しかしそれはこの超大国が覇権主義を棄て、弱小民族や、価値観を異にするものの意見に謙虚に耳を傾ける時である。
 



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