アメリカの春を確信して
 
アメリカのユネスコ復帰に寄せて 
目黒ユネスコ協会顧問・麗澤大学教授 服部英二氏から次のような言葉が寄せられました。
 アメリカのユネスコ復帰は、アメリカの良識ある方々がアメリカ輿論の表舞台に出てくる為の非常に大きな転換点になると思います。文化の多様性に目覚め、共生こそが人類の生存に不可欠であることをアメリカの良識ある方々は既に充分に知っているのです。その方たちがアメリカの輿論のリーダーシップを取り始めたとき、アメリカは真の力が発揮できます。国連の中でも良識の形成の場であるユネスコにおいて、アメリカが大きな活躍をすることを心から願っています。私たちは、まさに時代の転換期に立っているのだと思います。
(談:文責 広報委員長 奥澤行雄)
「ユネスコにアメリカが復帰する話題」
服部英二氏 NHKのラジオ放送から要約
 
■ ユネスコ総会が9月29日から始まり、アメリカが19年ぶりに復帰することになったが、どのような目的、理由があるのか。
 
・松浦事務局長による徹底的な内部改革、特に幹部職員を半減し、少ない予算を重要事業に集中したことがアメリカに評価され復帰につながったといえる。
・9.11事件(同時多発テロ)が契機となり、アメリカが国際社会との協調の必要性を感じるようになった。一方でブッシュ大統領になってからの単独行動主義も依然としてあるが、パウエル国務長官が強く推したことで復帰が実現した。特にイラク戦後をみてみると、今度の復帰は時機を得たものと考えられる。
 
■ アメリカの復帰により、ユネスコの運営や事業内容はどう変わるか。
 
・アメリカはユネスコの予算の22%を負担することになる。これを今まで費用を負担してきた国に還元すべきという意見もあったが、松浦事務局長の案は、アメリカの拠出分の半分を加盟国に還元し、半分を予算に加えるということである。
 今までの2年単位で5億7600万ドルの予算が6億1000万ドルとなり、名目的に12%の増加になる。10年間、名目的に横這いであったが、実質的にはインフレその他で減っている。それを埋め合わせるので12%にはならない。数%の増加と見ていい。日本の負担は22%から19%になる。
・総会に提出される予算書では、増加分はバラマキでなく、重点的に当てられている。事業によってはゼロもある。松浦事務局長が強調している「基礎教育」、「地球環境、とくに水の問題、海洋の問題」、「文化の多様性の問題」、「文明間の対話の問題」などに増えた予算が配分されている。
 
■ アメリカのグローバリズムが進んでいるが、一方で多文化が共生していかなければならないというユネスコの路線に、アメリカの復帰はどう影響するか。
 
・ユネスコの路線とアメリカのグローバリズムは両立しない。2001年11月2日に「文化の多様性に関する世界宣言」を採択した。これは「世界人権宣言」に次いで重要な宣言であると評価された。多様性こそが人類生存の必須条件であることをはっきり表した。アメリカ主導のグローバリズムへの鋭い警告になっている点でアメリカの復帰に一役買っている。
・ユネスコは長期的な世界輿論の形成の場である。安全保障理事会は火急の事態に対処するものであり政治的、軍事的問題を扱う。しかし、長い目で見て世界の良識の向く方向−世界輿論の形成の場はユネスコでなされている。「文化の多様性に関する世界宣言」も、こういう議論に加わらなければならないという気持ちをアメリカに起こさせたと思う。
■ この秋の総会での「無形遺産条約」が採択される見通しはどうか。
 
・これは採択される。元来、2005年に採択しようという動きであったが、多数の国々、特に途上国の圧倒的な支持で2003年に繰り上げられた。提出されるのは原案であるが総会中に採択されると見ている。
・無形文化財については、「世界遺産条約」と対比して見ないといけない。世界遺産は7月の世界遺産委員会で24件が加わり、754件が登録されている。このうち文化遺産は582件で、ヨーロッパに集中している。有形の文化遺産がヨーロッパに集中しているのは「石の文化」の発想である。木の文化、水の文化、森の文化は後世に残らないので少ない。
・無形文化財ではアフリカなどが浮上する。素晴らしい伝統的な踊りや歌、儀式の文化を持っている。日本もそうである。石の文化に対抗する一つの新しい発想と考える。石の文化を持ってこなかった文明も優秀な無形文化財を持っている。日本もすぐに条約を締結すると思う。
 
■ 条約が出来る前に、松浦事務局長が傑作をリストアップして、日本は能・狂言が選ばれた。今年の秋、条約が発足する前であっても文楽が予定通りリストアップされるか。
 
・2001年5月第一回の傑作宣言のときに19件が採択されて能・狂言が入った。今回、全世界から60以上の候補が上がっている。その中に文楽も入っているが採択されるだろう。無形遺産条約の中に吸収される形をとるだろう。
 
■ 「文化の多様性条約」は非常に難しい問題を抱えていると聞いているが見通しはどうか。
 
・宣言でなく条約を作ろうという話は、フランスなどから出ているが、この秋の総会では、それに対する話し合いを始めようという決議が行われるに止まるだろう。前に向けて進んではいくだろう。
 
■ アメリカがユネスコに復帰して、全体として今後、ユネスコはどうあるべきか。
 
・今の路線は非常に良いと考える。文化の多様性を保護する、それが本来のユネスコの姿であろう。アメリカが入ってきた場合、一国主義、アメリカの正義が世界の正義であるという考えは捨てて、多文化を尊敬し、他の伝統も尊敬して謙虚に学ぶという態度をとってくれれば、アメリカも世界の良き市民、良き友になりうるだろう。
 
2003.9.22 NHK ラジオ夕刊 6:00-6:55PMより
              文責:広報委員会 吉沢弘貢
 
服部英二氏は、9月30日にパリ・ユネスコ本部事務局長官房特別参与に任命され重責を担われることになりました

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