震災伝承学習,聞く・学ぶ・伝承する~未来の命を守る「あの日の鹿折の伝え手として」~

気仙沼市立鹿折中学校

活動に参加した児童生徒数/1~3学年104人
活動に携わった教員数/15人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/150人

実践期間2020年7月10日~2021年3月24日

活動のねらい

本校が位置する宮城県気仙沼市鹿折地区は,東日本大震災において津波・火災により壊滅的な被害を受けた地域である。震災から約10年が経ち,震災を知らない世代の入学や震災の記憶の風化が危惧される現状をふまえ,今年度より新たな防災学習を展開した。本学区は震災の被害が大きかった地域であり,地形的にも今後も津波の被害が危惧されている地域である。3・11の事実を学び,教訓として何を伝承すべきかを考えさせるとともに,防災・減災意識の高揚と地域の一員として,主体的に防災・減災に向けた行動をとることができる生徒の育成を目指す。体験的・探究的な学習を通して生命の重さや尊さについて考えさせ,防災・減災への正しい理解と必要な能力や資質の向上を図り,よりよい未来を創造し,地域に貢献しようとする主体的な態度を育む。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
 (1) 震災の記憶の風化を防ぎ,震災の教訓を語り継ぐ震災伝承学習
(探究的な学習)への取組
震災により甚大な被害を受けた鹿折地区の当時の状況を知り,生命の大切さや防災・減災への正しい理解と必要な能力や資質の向上を図るため,地域の被災者からインタビュー形式での調査協力をいただき,避難行動の可視化を通して教訓や気付き,学びを伝承する学習に取り組んだ。(活動の経過と時数は右表参照)学習全体を通して,「聞く」「学ぶ」「共有する」という視点を大切に学習を進めた。発表会は調査協力者や保護者の方々を前にポスターセッション形式で行った。また,震災伝承学習の一環として,6月に3年生,3月に2年生が気仙沼市震災遺構・伝承館での研修をそれぞれ行った。
時数 防災(震災伝承)学習・活動の経過
0 今年度の防災学習について(ガイダンス)
2~4 震災を知る学習(1年生)
救急救命講習(2年生)
震災遺構・伝承館研修①(3年生)
2
1
2
・聞き取り調査等のレクチャー
・顔合わせ,役割分担
・模擬練習(教師)・振り返り
3 避難行動詳細調査(インタビュー)(対象:地域住民11名)
8 ・調査内容の振り返り,整理
・探究テーマの設定
・活動計画の立案
・課題の追究,考察
・発表・発信方法の検討
・課題追究,発表準備
2 中間発表・振り返り
2 発表準備,グループリハーサル
3 全体リハーサル,準備
2 防災学習発表会(参観日)
1 振り返り,活動のまとめ
3 震災遺構・伝承館研修②(2年生)
(2) 避難所初期設営訓練の実施とマニュアルの作成(体験的な学習)への取組
気仙沼市総合防災訓練日において,コロナ禍対応の避難所初期設営訓練を実施した。地域の一員として中学生ができること,防災・減災に主体的に関わろうとする意欲と実践力の向上を目指した。事前に明確な目標【①教師不在でも生徒中心で設営できる力を身に付ける,②設営完了20分以内,③避難所初期設営マニュアルの作成】を設定した。訓練後は活動を振り返り,課題を検討し,避難所初期設営マニュアルにまとめた。

2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。
  昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
研修会での各校の実践例や実践発表する生徒の姿を拝見し,災害時のみならず社会や様々な場面において正しい判断と行動力で対応できるしなやかな力や生徒達の総合的な力を育むことができる学習活動の必要性をより強く実感した。そこで,防災学習計画を再度見直し,ストーリー性のある学習展開の工夫や発信方法の在り方,生徒同士の縦のつながりや連携を意識した活動計画の見直しを行った。また,地域や小学校との連携の在り方について模索した。
助成金を頂いたことで,震災遺構・伝承館への研修や防災学習アドバイザーとして東北大学佐藤翔輔准教授を招聘し,指導,助言を頂きながら学習を進めることが可能となった。

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
・東日本大震災についての知識や震災の事実や教訓を語り継ぐことの大切さを理解すると共に,命の大切さや自他を尊重する態度が高まった。
・課題を自分事としてとらえ,自分のすべき事やできることを考え行動に移すなど,主体的に課題を追究する姿勢や力が高まった。
・地域や社会参画への意識と社会貢献への意欲の向上が見られた。(上位の学年ほどその意識が高い)

児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
・社会や地域の課題をより自分事ととらえて学習に取り組む様子が多く見られ,学習後の振り返りの感想からも,地域貢献や自己有用感の高まりが感じられた。
・得た知識や資料を基に情報を整理し,自分の考えや思いを分かりやすく発信する力や,仲間と協働して取り組む中でコミュニケーション能力の向上が見られた。
・異学年縦割りの活動としたことで,自ずと上の学年がリーダーシップを発揮したり,下の学年の新しい着想がよりよいものを生み出すきっかけとなっていたりするなど,共に学び合い,自ずとそれぞれの得意分野を生かした役割分担や取組が生まれた。主体的に課題を追究する姿勢につながっているものと考える。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
・情報提供者の選定では地域の関係機関からも協力を頂いた。連絡調整をはじめ,平素から顔の見える関係づくり,新たなネットワークづくりの構築を目指した。総合防災訓練当日は避難,設営訓練の様子から振り返りまでの活動の様子を,多くの地域の自治会(PTA含む)やまちづくり協議会の方々に参観していただくとともに,生徒の取組について全体の場で講評をいただき,その後の活動に生かした。
・防災に関する校外研修や大学,地域との連携は,生徒だけでなく教員にとっても新たな防災・減災学習の指導方法や教育効果を学ぶ貴重な機会となり,教育効果が高まった。

4)実践から得られた教訓や課題と今後の改善に向けた方策や展望
今年度,新たな防災学習を展開し,生徒だけでなく教員にとっても大きな学びがあった1年であった。防災学習を通して,地域とのつながりや新たな絆を築くとともに,地域と学校が連携しながら地域におけるよりよい防災の在り方を考える契機となった。「生徒の生命・安全を守る」ことは,学校教育の基礎であり,責務である。被災地にある学校として,震災伝承学習や体験学習が,防災教育についての実感の伴った理解につながるとともに,未来を生き抜く力を育む学習であることを実感している。また,日頃から学校と家庭,地域が良好な関係を保持し,安全に関する情報を共有することが,生徒等の命や安全を確保することにつながることから,今後も情報共有の場,普段からの関係づくりを大切にし,共に活動する場の工夫していきたい。今年度の取組を振り返り,課題を整理し次年度への計画を立案,生徒の更なる成長を促していきたい。
【次年度の課題】
・年間指導計画の内容の見直し(活動の系統性や関連性の整理及び指導体制・組織の見直し)
・生徒会活動や防災学習における生徒主体のESD活動の推進。
・地域や小中,他校と連携した交流,学習活動の工夫

5)その他
・生徒の防災意識高揚の一環として,鹿折中防災イメージキャラクターを生徒から公募。
防災ポスターや,各種資料やお便りなどで掲載・活用している。

活動内容写真

活動において工夫した点

・コロナ禍における避難行動や避難所開設などの喫緊の課題や地域人材を活用した学習課題の設定。
・近隣の小学校への震災伝承の学びの発信・共有による防災・減災意識の啓発。(5・6年対象)
・全校生徒による簡易防護服づくりへの参加。ボランティア団体の方々を講師に迎え,これまで約600着完成。東京の医療機関や気仙沼市などに寄贈,学校でも備蓄している。
・震災発生から10年となる令和3年3月10日に実施した震災遺構・伝承館での研修では,語り部として活動している気仙沼市立階上中学校3年生から館内をガイドしてもらい,その後,意見交換を行うなど「震災伝承」という視点においてさらに学びを深めた。

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