生徒自らが行う防災教育の永続的システム作り

熊本県立東稜高等学校

活動に参加した児童生徒数/1~3学年1080人
活動に携わった教員数/85人
活動に参加した地域住民・保護者等の人数/55人

実践期間2017年4月1日~2018年3月31日

活動のねらい

14年後には、熊本地震後に生まれた震災を知らない生徒が入学してくる。また県内でも被災状況の濃淡に伴い防災意識にも温度差が大きい。さらに「熊本の次はまた熊本」の可能性も高く、防災教育は喫緊の課題である。また本校生は全国に進学していくため「東稜高校は内陸部に有り津波は関係ない」という意識ではなく、総合的な防災リテラシーを身につけさせる必要がある。
一方学校は、震災の為1ヶ月間授業の中断を余儀なくされ、学力保障のための授業時数の確保、生徒の心のケアのための担任の時間確保が最優先されるべき状況にある。また学校には、性教育、キャリア教育、主権者教育など○○教育と名のつくものが数多くあり、授業時数確保に苦慮している。以上の実態を踏まえて、活動のテーマを上記のとおり設定し、防災教育をブームや一過性のものにさせないために、日常の教育活動に溶かし込むことを活動の目的とした。新しいことに極力手を広げず、今あるものを防災の視点から見直し、生徒に出来る事は生徒にさせながら、自主性、責任感、行動力の育成を図り、担任負担を減らし、授業時数削減をしない、どの学校でも、誰が担当者でもできる持続可能なシステムとプログラムの開発をねらいとした。

活動内容

1)実践内容・実践の流れ・スケジュール
実践は、学校防災教育年間計画に従って行った。(別添資料1)教科内容を防災の視点から見直し各教科の授業の中で行うものと特別活動の時間を使って行う防災教育(Ⅰ)~(Ⅳ)と防災をテーマにした小論文コンクール、防災グッズアイディアコンテスト、P1チャレンジなど行事として行うものの3分野から構成した。

2)9月研修会の学びの中から自校の実践に活かしたこと。研修会を受けての自校の活動の変更・改善点。
  昨年度まで(助成金を受ける前)の実践と今年度の実践で変わった点。助成金の活用で可能になったこと。
研修会の学びの中から実践に生かしたことは、次の3点である。階上小学校、中学校の訪問の中で最先端の防災教育を見せていただき、児童・生徒は高い防災リテラシーを身に付けていることを実感した。熊本でも今後小中学校で、高い防災リテラシーを身に付けた生徒が入学してくることが予想される。高校としてそれらをさらに深めるようなプログラムの開発を心掛けた。また研修全体をとおして、人と人との繋がりが人の心と体を救うことを学ばせて頂きハード面とソフト面のバランスを心掛けた。例年、校内での避難訓練が主な実践であったが、本年は訓練に加えて教育の実践も導入した。学校一斉指導を変更し、3か年計画で原則学年毎のプログラムとした。また助成金の活用で、Face to faceの他校を訪問しての交流が可能となり、防災教育の核となる生徒防災委員の育成が出来た。

3)実践の成果
減災(防災)教育活動・プログラムの改善の視点から
防災教育・防災管理に関して、昨年度の1事業から本年度21事業に事業数を大幅に増やしたが、短縮授業1日と3時間のLHRとでほとんどの事業の企画、運営を担当者と生徒防災委員で行うことが出来た。学校評価アンケートの結果の分析の防災教育に対する満足度の問いでは、生徒は、よくあてはまる56%、当てはまる40%で、ネガティブな回答である当てはまらない、全く当てはまらないを合わせても4%であるのに対して、職員は「防災教育に積極的に取り組んだ」では、よく当てはまる28%、当てはまる54%で、ネガティブな回答が18%と、生徒の4倍強となった。活動量は満足度を高めるための重要なファクターであるから、保護者の回答結果が、生徒と職員の中間の結果であったことと合わせて考えると、本年度の防災教育は、少なくとも、生徒主体の活動が多い実践であったといえる。防災教育と授業時数の確保・生徒主体の活動が両立できて、防災教育の日常化と継続に寄与できるプログラムに近づいたと思われる。しかし地域防災の要である職員の防災意識と防災リテラシーの向上が今後の課題ともいえる。

児童生徒にとって具体的にどのような学び(変容)があり、どのような力(資質・能力・態度)を身につけたか。
専門家による講義と実習により基本的な防災リテラシーが獲得された。また地域住民、関係機関、保護者、学校運営協議会委員の協力を得て行った避難訓練・防災訓練の各学年のアンケート結果を分析すると、全学年で「防災について家庭でも話題にしたい」「何らかの備えを考えたい」と大多数が答えており防災教育の成果が家庭にも波及したと言える。2年生では、「防災通信を公民館に貼りたい」などのアイディアが寄せられ、約25%の生徒が「今回の避難所開設支援訓練で学んだことなどを活かして、地域のボランティアに取り組みたい」と回答している。地域を巻き込んだ避難訓練、防災訓練のFace to faceのコミュニケーションが、地域と生徒の距離を縮めた。また知識や技能を身に付けたことがボランティアへのハードルを下げた。今後学校としてボランティアを推進していかなければならない。逆に言えば我々がそのような機会を与えてこなかった。反省点である。学校評価アンケート(別添資料8)のボランティアに対する満足度に関する問いの回答から、「ボランティアを積極的に行っている」という問いに、よく当てはまる、当てはまると回答している生徒が、31%にとどまっているのに対して、職員は「ボランティアを積極的に推進している」の問いにポジティブな回答が、74%で2倍強となっており、生徒と職員の意識のずれが大きい事がわかる。これは教職員の認識の甘さに起因している部分も大きいと考えられ、職員の意識改革のための社会性、社交性の養成やボランティアをコーディネート出来る教員の育成が課題として浮上した。すなわちボランティア推進は、生徒の問題でなく指導者側の問題である。この問題点が洗い出せたことも大きな成果であった。労働力提供型でなく課題解決型のボランティアの推進を目指す。
また、小論文コンクールでは、防災意識を検証することで日常生活の意識を検証することも出来た。非日常を考えることで日常生活が改善される、防災教育の他の教育活動への波及効果が確認された。特に3年生では、この傾向が強かった。防災グッズアイディアコンテストでは、日常を防災の視点から考えるきっかけを与えた。この取組から将来商品化出来るものが生まれ、その収入で防災教育の活動資金が得られれば幸いである。防災通信は、家庭の防災意識の高揚に繋がった。P1チャレンジも、意識向上の有力な手段となり得ることが確認できた。
葛藤事例を用いた思考実験型討論授業では、解なき葛藤状態の中で、様々な価値観、道徳観をぶつけ合いながら議論を重ねたことで、思考力、判断力、表現力の育成や多様性の許容力を高める効果があった。

教師や保護者、地域、関係機関等(児童生徒以外)の視点から
本年度から熊本県は、全ての県立学校を防災型コミュニティースクールに指定して、学校運営協議会を設置して、新設の防災主任を中心に地域と連携した防災管理に取り組んでいる。東稜高校のある山ノ内地区はベッドタウンである。人口約9700人、うち高齢者2000名、うち要介護者400名、昼間の発災の場合、現役世代のほとんどは町外に働きに出ており、東稜高校約1200人は貴重なマンパワーである。地域連携の中でこの事実や地域の東稜高校に対する期待が分かったことは成果の一つであった。また逆に東稜高校を地域に知って頂いたことや地域や行政の声を防災マニュアルなど防災管理に生かせたことは意義深く、「防災行政に関する高校生の意見を頂きたい」という声も上がり、取組に双方向性が出てきた。人と人との繋がりが出来たことが最大の成果である。保護者からも期待以上の満足度を得た。

4)実践から得られた教訓や課題と今後の改善に向けた方策や展望
人と人との繋がりを作ることが防災教育では大切であるということが実践から得られた教訓である。多くの外部の方々の献身的なご協力に助けられた。感謝の一年であった。
課題については、小中学校で身につけた防災リテラシーを深化させるプログラムの開発である。小論文コンクールでも、防災意識の高まりなど一定の効果が得られたが、日本人がなぜ共助に強いのか、絆や無常観など日本人の心の原点に迫る深い考察が出来る洞察力や思考力の養成がさらに求められる。また段ボールベッド作成実習においては、ベッド周りの仕切り壁をどの位の高さにするのが適当であるか、プライバシー保護と避難所の安全管理の観点から考えさせるなど、訓練に教育の要素を取り入れる視点を持って、思考力、判断力、表現力を養成できるように、個々のプログラムの改善が求められる。進学校であるからには、学力向上に寄与できる防災教育プログラムを目指したい。またプログラムによっては、広範囲から生徒が通学してくるという高校ならではの事情から工夫すべき点や限界も見えてきた。活動資金の確保や防災管理と防災教育の担当者を分けて互いの質を高めるなどの課題がある

5)その他
防災教育は命の教育である。だから理想論ではなく現実論で考えなければならない。ましてやきれい事は通用しない。生徒も否応なしに、命や現実と向き合い、また自分と向き合うことになる。このことが生徒を成長させ大人にした。また防災教育は人と人の繋がりを作る。さらに防災教育が進路選択の切っ掛けとなり、進学に結びついた生徒が出たことは、進学校における防災教育実践の成果として小さくない。今後も防災教育の可能性を探っていきたい。
今年度の実践活動は、教員研修で得られた知見がベースとなっている。このような示唆に富む、貴重な学びの機会を与えて頂いたユネスコ協会様やアクサ生命様をはじめ、多くの方々に心より感謝申し上げたい。今年度得られた全国の学校・関係機関との良いご縁を大切にして、防災教育を持続発展させたい。

活動内容写真

活動において工夫した点

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