Spot light
~There never was a good war or a bad peace.~
ちょっとキザですが、米国の100ドル紙幣にその肖像が印刷されているベンジャミン・フランクリン(1705~1790)の言葉をこの稿のタイトルに使ってみました。<
日本ユネスコ協会連盟が2007年に刊行した『民間ユネスコ運動60年史』の冒頭を飾っているのもフランクリンのこの警句です。その訳文には昔の日本人が訳したのでしょうか、「善き戦争の在りしことなく、悪しき平和の在りしことなし」と添えられています。あなたなら、どう訳すでしょうか?
フランクリンは「アメリカ独立宣言」起草委員で「合衆国建国の父」と称えられてもいます。いまこの警句を全ての国の為政者はじめ、とりわけ米国の政治家はじめ良識ある市民に噛みしめてほしいとの想いに駆られています。
20世紀は戦争の世紀だったけれど21世紀こそは平和と和解、寛容の世紀にと、人びとが祈念して明けた21世紀でしたが、新世紀幕開けの年の9・11同時多発テロ以来、世界を覆っているのは「憎しみの連鎖」。いずれも20世紀にその端を発しているものばかりで、このままでは更におぞましい犠牲を次の世代に残すのではないか。
そうした中での唯一の光明は、2014年のノーベル平和賞がパキスタンのマララ・ユスフザイさんとインドのカイラシュ・サティヤルティさんに授与されたニュースでした。残念ながらその両国とも核兵器保有国でありますけれど。かつて桑原武夫日ユ協連副会長は日本は核兵器保有国にはODA援助はすべきではないと語っておられましたが、国家が軍拡や核兵器開発に走るからこそ、その国の民衆はより苛酷悲惨な貧困状況に追いやられているのが現実です。インドのスラムに住む子どもたちの識字教育に長年献身されたドゥ・ソーザ神父のプロジェクトを、あるいはアフガニスタン難民を受け入れたパキスタン領内の難民キャンプでの識字活動を私たちは「ユネスコ世界寺子屋運動」で支援し続けました。私たちの運動は民間同志で連帯すべきと考えたからでした。
1950年代に文部省が出版した『ユネスコの手引』(箕輪三郎著)によれば、人類の歴史上締結された平和条約の類いは1600、その平均寿命は僅か2年とあります。
UNESCO憲章前文に、真の永続する平和は、政府間の取り決めではなく「人類の知的精神的連帯の上に築かれるべき」とうたっているのが頷けます。
ノーベル平和賞を受けたマララさんが、まっさきに起した行動はパレスチナ自治地ガザの学校再建のために、自身に贈られた「世界子供賞」の賞金5万ドル全額の寄付でした。2014年7月初旬から実に50日間も続いたイスラエル軍の攻撃でガザの多くの学校が壊滅状態でした。またノーベル賞授賞式での受賞演説では、賞金は女子教育に取り組む「マララ基金」に寄託すると表明しました。
いま、マララさん関連の書物が書店に各種並んでいます。私のお奨め本は『マララさんこんにちは――世界でいちばん勇敢な少女へ』(写真)。同書はマララさんノーベル賞受賞の前年、国際NGOプラン(1937年設立)が編んだもの。タリバンの銃撃から回復したマララさんを招いて2013年に国連で開いたユース集会でのマララさんのスピーチに感動した世界各地の子どもたちが寄せたメッセージが、撮りためた子らの写真と共に生き生きと紹介されています。
「こどもの日」の贈りものに最適の絵本です。 (尾花珠樹)
{ローズマリー・マカーニー文、西田佳子訳、A4変型、西村書店刊、1,200円}