スポットライト

短歌・川柳・俳句に詠まれた原発

私は、「日本の原子力発電の経済性」という題で卒業論文を書き1959年電機メーカーに就職したが、原子力部門には配属されなかった。

退職後原発の現状を知りたくて、大学のゼミナールの社会人コースに参加したり、会社のOB会で「原発傍目八目」という題で話をさせてもらったりした。「原発ノート」という題のスクラップブックは現在125冊目になる。原発事故を予知した歌人がおります。郡山市の阿部壮作氏の作品。

東に原発基地あり陽の昇るたびに一日の無事祈るなり(2001年9月)

仙台の大口玲子さんは2001年に、五官では感知しえぬものとして来む確実に来む、と人はささやくと詠み、3・11で現実となり、次の歌を残し宮崎に避難された。
黄昏の東北を生きる君を捨て私は逃げる息子を連れて
2012年8月、歌人大辻隆弘氏は毎日短歌月評で“原発問題を扱った歌”についてこう論じている。「短歌では社会的政治的意志を表明することは危険だ。それは歌を無味乾燥なスローガンに近づけてしまう可能性を孕んでいる。が、歌人たちは、その禁を破ってまで歌うことで原発問題にコミットしようとしている。私はその姿は潔いと思う」。

放射能汚染とて売れぬ魚・野菜七十歳過ぎし我等食ふべ
日立市 木村恵子
父を置き外に逃れし母と子の敷島の疎をあらためて問う
南相馬市 児玉邦一
公はもう信じない この足で両目で耳で生きてゆくのだ
松戸市 原田由樹
廃炉まで四十年といふその日迄なにがなんでも生きていたい
松戸市 大野けい子
亡ぶなら核のもとにてわれ死なむ人智はそこに暗くこごれば
歌人 岡井隆
果てしない除染作業に人生を捧げたくはない 若者われら
浪江町 三原由起子
避難方法わかりません原発さんまだ動かないで下さい
長岡市 渡辺康一
全原発止まりしときから三度目の仲秋の月いにしへの色
越谷市 山崎啓子
避難指示解除なんぞ言われても医者は戻らず店は開かず
郡山市 橋本英之

川柳に詠われた原発は、どうだろうか。川柳は人情世情を本音の話し言葉で表現する伝統をもっている。幾多の警世の句がうまれた。毎日の「万能川柳(通称・万柳)」の選者仲畑貴志氏は2011年12月に、次のように述べている。
「3・11の原発震災は強い国民的ショックだから、恐らく沢山の句が寄せられるだろうと考えていたのですが、そうではなかった。それほど傷が深く重い出来事だという証でしょう」。

水かけて消すもんなんだ原子の火
鎌倉  晏ちゃん
現実にイスカンダルがあったらな
枚方 登美子
有ればなあ地球検診内視鏡
西宮 寺田稔
首相より村長偉く見える国
大津 水生虫
古里を捨てて逃げろと言うむごさ
大田原 小林義雄
バカヤロウおのれに向けてもバカヤロウ
福島 ろこたん
原発の句を作るのはもうイヤだ
恵庭 恵庭弘
ハミングで歌う「ふるさと」泣かぬため    
北九州 むべの花
このままじゃ孫には渡せない未来
八女 鉄爺
当事者が外部者のよに記者会見
別府 タツポン
指摘され無視しておいて想定外
東京 ちょいQK
外国のメディアに事実教えられ
福岡 龍川龍三
国民に本当のこと教えてよ
四日市 クーちゃん
原発の真のコストをはじき出せ
宝塚 澤井隆泣
福島は他人事です再稼働
長崎 剛
借金と汚染水だけ溜まる国
神奈川 荒川淳
原発は安価か除染5兆円
藤枝 寺田克

「俳句は記録と記憶の文芸」と、2013年9月毎日“詩歌の森”で酒井佐忠氏は言う。幾つかを記す。

雪解川海へ海へと放射能
福島 後藤載子
みちのくの今年の桜すべて供花
被爆して吹雪きてなおも福の島
俳人 高野ムツオ
春の地震(なゐ)などと気取るな原発忌
俳人 山崎十生
三年ぶり泊まり我が家の胡瓜もみ
楢葉 永山和平・貞子
詩歌は歌い続けられ、記憶に刻まれて、大きな力を人々に与えてくれる。咲いて散る花ではない。
(渡部研自)

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