ユネスコ講座「いま、平和を考える」    12月 1日(土)中目黒青少年プラザ
 
 目ユ協の青少年対象活動委員会の青年により企画実行された講座で、服部英二氏(目ユ協顧問)のレクチャーの概要は下記の通り。
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 服部英二氏は[テロと報復、憎しみの連鎖を断ち切れ−文明のひずみ是正を]と題して今回の同時テロに焦点を当てて「9/11は世界が変わった日と言われているが本当にそうだろうか」「このようなテロの背景はなにか」「この事態に即して日本はなにをすべきか」について話された。
 
   概 要
 初めに今全世界の注目の的であるアフガニスタンについて、その地域の文明の歴史から説き起こされた。
 紀元前 500年ガンジス川の河口に生まれた仏教が、西の現在のパキスタンのガンダーラまで達し、北から来たイラン系のゾロアスター教、西から来たギリシャ文明(ヘレニズム)それにインドのバラモン教を加えた3つの文明との出会いがあり、大乗仏教が生まれた。そこで初めて仏像が作られた。バーミャンの黄金色に輝く巨大仏像には金箔が貼られていた。これはギリシャ彫刻の影響で、あれ程の大仏は世界のどこにも無い。しかも 5世紀には出来ていたと思われる。これは大乗仏教が古代オリエント文明に出会ったことを示している。そのような貴重な場所が、今、戦火の中に在る。非常に悲しいことだ。ほんの30年前までアフガニスタンは桃源郷だった。豊かではないが平和な国だった。米ソ二極構造の冷戦の最中、ソ連軍のアフガニスタン侵攻が起こり、10年に及ぶ激しい戦いの後にソ連は敗退した。しかし、引き続き起こった権力争いの内戦により、多くの難民が隣国パキスタンに逃れ難民キャンプを作った。サウジアラビアの援助により、立派な建物で10代の少年たちが勉強をした。ただし、コーランのみ。そのコーランで育った神学生達がすなわちタリバンで、アフガニスタンに帰ってカンダハルに拠点を構えた。彼等は非常に質素で清潔で秩序を守ってコーランの教えの通りに行動し、民意を掴み 3年にして全アフガニスタンがオマル師率いるタリバンの勢力下に入った。
 
 現在、日本は西欧諸国側にいて、メディアも一方的な立場で情報を流している。しかし、私達は公平な目で判断しなければいけないと思う。文明を築いて来たのは理性である。
 少なくとも9/11から 1か月間はその理性が一時的に姿を消した。世界のリーダーたるべきアメリカ大統領も理性を失った言葉を頻発した。「報復:vengeance 」はキリスト教精神からはほど遠いキリストが禁じた言葉である。この言葉によって、何時の間にか戦争が正当化されるという事態が起きた。「精神の同質化」現象が世界的に起こった。だれも反対出来ない。一方、イスラム、中国、ラテンアメリカ等数十か国の人々はこの事件に手を打って喜んだ。世界は二極分化した。大きな危険性を将来に残した。精神の同質化は批判精神を封じ込める口実になる。いろいろな意見があることが貴く、一つの均衡をもたらす。それが同一の意見だけになった時は非常に危険だ。
 
 世界的に見ていろいろな文化の多様性こそ宝だ。これがユネスコの立場だ。テロリストは姿が見えない。それに対する報復は「姿を見せるテロ」である。イスラムの人に限って悪く言われている風潮がある。日本においてもイスラムのことを知っている人は少ない。同じ人間、敬けんな清潔な人々なのに怖さを伴うイメージはどこから生まれたのか。イスラムは大文明だ。シルクロードの文化交流、古代ギリシャの再発見、アラビアにおけるルネッサンス等々イスラムの人々の世界の文明に及ぼした貢献は素晴らしい。
 
 ところがそれらが教科書から抹殺されているという事実がある。このような歴史の歪曲がバックグラウンドにある。それに対する恨みがずっとイスラム社会の人々の中にある。アメリカのような巨大な価値が現れて世界を圧倒しようとする時、底辺にある恨みがテロリストに口実を与えたと言える。
 
 ☆日本は何をすべきか。
 テロリズムに対して毅然とした態度をとることは絶対必要だ。しかし、それが直ちにアメリカと同調することではない。巨大な独善主義に走っている西欧思想と違う立場、例えばG7諸国の中で日本は唯一キリスト教国ではない。それらの国とイスラム教国との中間の立場をとれる国は日本しかないのだ。この二つの間に文明間の対話と互敬を呼び掛けることが日本の本当の役割だと思う。 
                                文責 清水(研修活動委員長)


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